第1話
一応、前作の『天界の司書、転生したら最強でした!』の続きという位置なので、前作から読んでいただくとより面白味が感じられるかもしれません。
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第1話 BRAIN
そして、現在。
大雨の中、黒いセダンが一台、巨大な施設の前に止まった。
運転手は慣れた手つきで、運転席から傘を差し、後部座席を開け、そこから降りる人を濡れないようにした。
すらっと長い脚が、後部座席のドアから見えた。そこには、長身で黒い長髪の、黒のスーツをビシッと決めた一人の女性が現れた。
「どうぞ。」と傘を差しだし、渡した運転手は、その女性が降りるのを待ち、後部座席のドアを閉めた。
「ありがとう。」と傘を受け取り、傘を差したスーツの女性は、一人巨大な施設の中へ入っていく。
自動ドアが開き、目の前には、金属探知機のゲートがある。
それを潜り抜ける際には、警備員に不要なものを預けなければならない。しかし、その女性は、身分証明証を警備員に見せると、警備員は敬礼をしゲートを通した。
その時だった。その長身の女性が警備員の胸倉をつかみ言った。
「もし私が、シェイプシフターならどうするつもりだ?」
「え、あ・・・。申し訳ありません!どんな身分の方でも身体検査や金属探知機をするべきでした!」
「その通り。だが、もう一つ。カメラ越しにシェイプシフターを見ると目が光っているのが分かる。私がシェイプシフターだとしたら、胸倉をつかんだ時点であの監視カメラで特定され射殺されている。ということはどういうことだ?」
「黒木課長がシェイプシフターではないということです・・・。」
「その通り。では、通らせてもらう。」
その気迫に新米警備員は圧倒されてしまった。
警備員は複数名いる。しかし、この施設にくる者はほとんどいない。
出入りがないからこそ、気が抜けていたのだ。しかし、他の警備員はこの黒木という女性が来るときだけは違った。本当に何かが起こる直前という緊張感が漂っていた。この新米警備員は、黒木の洗礼を受けた。
―――――
受付に向かう黒木。
受付嬢が、身分証明証の提示を求める。それに素直に応じる黒木。
「黒木課長。お待ちしておりました。面会時間は30分間です。」
「あぁ。わかっている。」
「では、B365の受付で手続き後、面会を開始してください。」
「わかった。あと、この書類を施設長に通してくれ。確実にだ。」
「かしこまりました。」
茶封筒を受付嬢に渡すと、エレベーターに乗り込み。目的地にむかった。
大雨の音は、一切この施設の中には聞こえてこない。
閉鎖された空間であり、窓もなくあるのはコンクリートの灰色の壁。まさに、刑務所といったところだ。
ここに収容されるのは、BRAINと呼ばれる異能力者である。
何らかの影響で脳が異常発達し、異能力を発現した者で、危険と判断されたものが収容されている。
この収容施設は、北は北海道、南は沖縄まで、各都道府県に1か所設置されている。
この施設は『異能力者東京収容所』であり、1000人以上のBRAINたちが収容されている。
黒木は、その中でも最も危険である人物の面会のアポイントを取っていた。
名を「白中ユメト」。BRAINの中でも非常に強力と言われている異能力者である。
黒木は、凶悪なBRAINと面会するにもかかわらず、穏やかな気持ちでいた。彼女は豪胆である。
警察とは違い、BRAIN専門の調査機関である「特殊能力者調査部隊」に所属している。主にBRAINに関する事件や事故の調査、BRAINの制圧までを仕事にしている。
今回の目的は、この「白中ユメト」の勧誘である。勧誘とは言っても、もはや決定事項であり、拒否権はない。この人物を「特殊能力者調査部隊」に引き入れるためにやってきた。
エレベーターの扉があき、さらにまた受付がある。
受付には、さきほど入口にいた受付嬢がまたいた。どういう仕組みか細かいことは分からないが、ホログラムの一種であろう。
「BRAIN「白中ユメト」との面会に来た。」
「面会時間は今から30分となります。現在は覚醒状態です。」
「それは僥倖。意味のない時間にならなくて済んだ。」
「この書類に面会時間とサインをお願いします。」
スラスラと慣れた手つきで面会の帳簿に名前を書いていく黒木。
この場所を訪れるのは、初めてではない。
しかし、無駄足を踏むことも多く、なかなか調整が上手く行かず、白中を「特殊能力者調査部隊」に引き入れることが出来なかった。
今回は、決定事項を伝えるために来た。その後は、護送車によって、特殊能力者調査部隊本部まで移送される。その最終段階の話をしに来た。
分厚いガラスの前に部屋の中へと通じるマイクが置かれていた。
ガラスの向こうには、完全に拘束され、身動きを全く取れない状態になっている白中がいた。
「白中、起きているか?」
「あぁ。黒木さん。おはようございます。」
白中は白髪で血の気の通っていない顔面蒼白である。しかし、眼の下には、その白色の顔にくっきりと真っ黒なくまが出来ていた。
「今日は、お前の特殊能力者調査部隊の入局の決定を伝えに来た。」
「あぁ。本当にいいんすかね。僕なんかが。」
「まぁ、かなりの懸念はあるが、東京に一人しかいない身体に影響のあるBRAINだからな。」
「はぁ。そんなに珍しいんすか?」
「各都道府県の特殊能力者調査部隊には、能力の大小に関わらず、身体に影響を及ぼすBRAINが必ず1人はいる。しかし、そのなかでも主要都市には、必ず超強力なBRAINが配属されている。東京は主要都市だからな。お前みたいな能力者が必要だ。」
「はぁ。自分じゃコントロールできないんすけどね。」
「そこは私に任せておけばいい。」
「はぁ。そうっすか。とりあえず、ここから出たとしても迷惑かけるだけの気がするんすけど。」
「お前のフォローの準備は出来ている。役割をこなしてもらえればそれでいい。」
「・・・。わかったっす。んで、護送はいつになるんすか。」
「今夜だ。夜に迎えが来る。出来るだけ今のうちに寝ておいてくれ。護送の時に起きておいてもらわないと面倒ごとに巻き込まれるかもしれないからな。」
「あぁ。そんなに簡単に言わないでくださいよ。寝れないんすから。」
「まぁ。私も護送車に乗るから安心しろ。」
「その安心しろって何を根拠に言ってんすか。」
「時期、分かる。では、また迎えにくる。」
「了解っす~。」
けだるそうな声でやり取りをする白中と黒木は、ガラス越しにしてもなんとも言えない距離感で話をしてた。今後、上司と部下になるというのに、その敬意すら感じることはできない。
立場というものがないようだった。それほど、長い間、黒木はこの場所を何度も訪れていた。
―――――
黒木は、面会を終え、異能力者東京収容所内にあるカフェでコーヒーを飲んでいた。
「失礼するよ。黒木君。」
「これは、東金所長。ご無沙汰しております。」
黒木は座っていた席から立ちあがり、丁寧にあいさつをする。
「まぁ。座ってくれ。」
「失礼します。」
「白中のところに足しげく通っていたことがようやく実を結んだようだな。」
「はい。彼は東京の特殊能力調査部隊に必要な人材です。」
「しかし、かなりの危険が伴うのであろう?」
「はい。そこは私が管理いたしますので、心配には及びません。」
「例え君の能力や武術に秀でていたとしても、簡単にはいかないであろう?」
「簡単ではないですが、彼を制御しなければ東京でのBRAINの悪行は広がるばかりです。」
「彼である必要は・・・。あるか。」
「彼は、SランクBRAINであり、『夢遊病』の能力者です。」
「非常に使い勝手の悪い能力だ。しかし、通常ではありえないほどの身体能力と強化。これがSランクと言える最低条件か。」
「はい。非常に危険な能力でありますが、覚醒時は、常人と変わりませんので、調査に影響はないと判断いたしました。」
「そうか。所長の私としては、彼が外に出ること自体を危険視しているのだがね。眠るとは誰もが行う当たり前のこと。それが彼に取っては脅威。そして、その牙が他者に向く。」
「ご心配感謝いたします。しかし、異能力者東京収容所には、彼を越える能力者はいません。」
「・・・。まあ、あれでもまともな方か。しかし、忘れないでもらいたい。BRAIN達は、能力に振り回されている場合もある。制御が出来ないだけで、必ずしも悪とは限らない。」
「はい。その見極めは、私含めてチーム内で肝に銘じておきます。」
「とにかく、何でもかんでも収容所に送ってくれるなよ?」
「かしこまりました。」
「じゃあ、邪魔したな。白中を頼んだ。」
「はい。ありがとうございます。」
黒木は席を立った東金に深々と頭を下げた。
東金は、この異能力者東京収容所の所長という肩書であり、BRAINの身分の設定を行っている者であり、全権を握っている。東金の許可が下りたのも、黒木による説得もあるが、現在の東京の特殊能力調査部隊には、SランクBRAINが1名もいない。対BRAINの調査ともなれば、同じ能力者同士をぶつけるのがセオリーである。主要都市の東京の特殊能力調査部隊にいないと分かれば、BRAINの悪行は広がってしまう。
抑止力という形で白中の入局を許したが、東金は一抹の不安を抱えていた。
また、ゆるゆると書いていきたいと思います(=^・^=)