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サンデンキ  作者: まついち
第一章
7/11

6.方針

 午後6時頃。日は沈みかけ、街中も賑わい始め、夜の顔へと変わっていく。

 もうほとんどの出店が畳まれ、馬車の通りがすくなる大通りのある場所に酒場があった。

 そこは冒険者ギルドと隣り合わせになっており、ほとんど併設されたような施設で、依頼を終えた冒険者がここにたむろするのはこの街ではもはや常識めいた事である。


「「カンパーイ!!」」


 より賑わう店内のある一角には、若い少年少女がひとつのテーブルを囲んでいた。

 彼らもつい先ほど報酬を受け取り、懐が潤ったところだろう。


「いやー今回はジェネラルを倒したからたんまり貰えたな!」

「はい!今回はジェネラルも倒しましたが、何より魔石が売れに売れたおかげで、なんと37940ディアも貰えました!これはいつもの50倍近い報酬ですよ!とんでもないです!」


 そう言いながらカイトたちは頼んだ料理を食べていく。今回はジェネラルを初めて倒した記念として、小さなパーティを開いているところだった。


「お金は貰えても等級は上がらなかったみたいね」

「ポイントが足りなかったんだろうね」

「ま、なんせ4人分だからな。そりゃ溜まりにくいわな」


 パーティを組む場合、等級をあげるのに必要なポイント数がソロよりも多いのだ。人数が増えるため当たり前のことではあるが。


「それにしたってやっぱ目潰し強すぎだよな。オークもあれで行けるんじゃね」

「確かに目潰し強いね。僕もまさかライトがこんなに役立つとは思っていなかったよ。オークはさすがに無理がありそうだけど」

「カイトのライトは普通じゃないのよ。あんな使い方は聞いたことがないわ」


 横にいるエイラが頬杖を着きながら言ってくる。

 確かに、ライトなど、生活魔法に分類される魔法は、文字通り日常生活でしか使わないものが多い。ああいったやり方は本来普通ではないのだ。


「やっぱりカイトくんの魔力操作が関係してるんですかね」

「それはありそうね。魔力量も多そうだし……あーあたしもあんな風に操ってみたいわー」

「あはは。僕はライト以外の魔法を使ってみたいよ」


 そう言い合いながら飲み食いをしていく。それから1時間ほど他愛もない話をしたところでエイラが見回すように話し始めた。


「そういえばまだ方針を決めてなかったわね。みんな行きたい場所とかあるかしら?」

「方針、ですか……私は今のところ特に行きたいところはないですかね。強いて言えばお金を貯めたいです」


 少しほろよいになっているローネが答える。


「俺は世界中の強いやつと戦えればどこでもいいぞ」

「アッシュらしいね」

「だろ? カイトはどうなんだよ」


 アッシュが肉にかじりつきながら聞いてきた。


「そうだなぁ。ダンジョンとかあったら行ってみたいな」

「ダンジョン? 迷宮のこと?」

「えっうん、多分それ。あるの?」

「あるわよ。ちょっと遠いけどここから北西の方にあるバジニスタって国ね。そこにある大迷宮が有名よ」

「ほんとに!?じゃあそこに行きたいな!」

「なるほどね」


 エイラの情報を聞いて興奮するカイト。エイラはそれぞれの要求を聞いて少し考える素振りを見せる。


「じゃあしばらくの方針はバジニスタにある迷宮に行くってことでいいかしら。そこへの移動費もろもろを今から準備していく感じ。それでどうかしらリーダー」

「いいね!それでいこう!」


 エイラの提案にカイトは勢いよく了承する。ダンジョンに行けるとこがそれほど嬉しいのだ。


「俺もそれでいいぜ。どうせずっとこの辺にいるのも退屈ではあるしな」

「私も大賛成です。どの道お金を貯めないとですし」

「決まりね。じゃあ今回はこの辺でお開きにしましょ」


 エイラの呼び掛けにそれぞれ急いで頼んだ料理を食べるのだった。

 その後、今回の費用が300ディアを超えていたことに、ローネがしかめっ面になるのも無理はなかった。

 宿屋に朝食付きで一泊するのに1人50ディア必要だと考えれば、その値段がいかに破格かがわかる。


 酒場を出て、宿屋に向かう途中、不機嫌そうなローネがジト目で3人を見渡した。


「全く、一体どれほど飲み食いしたらあんな金額になるんですか」

「ま、まぁまぁ、今回は祝勝会だし特別ってことで」

「むぅ」


 カイトが宥めるとローネは仕方がないと言わんばかりに前を向き直る。


「ローネはほんとお金が好きだよな」

「お金の余裕は心の余裕、ですよ。それに世の中結局お金なんですから。アッシュくんが強者と戦いたいのと似たような感じです」

「なるほど。なら大事だな」


 ころりと納得してしまうアッシュもアッシュだが、ローネはチームで1番お金を気にしていたのは組み始めてから分かりきっていたことだった。いつもの光景である。


「ローネがお金のことを考えてくれるのはありがたいよ。僕なんてすぐ使っちゃいそうで怖いね」

「むしろあたしはカイトがすぐ使うってことにびっくりなんだけど、何に使うの」


 カイトの答えにエイラが反応して質問してくる。


「僕は伝説が大好きでね。そういう系の本を見つけると、つい買ってしまうんだ」

「伝説? あぁ、さっきダンジョンって言っていたのはそういう事ね」

「そうそう!」


 カイトの回答に納得した様子のエイラ。


「伝説とダンジョンが何で関係あるんだよ」

「多分だけど、トールの大冒険って本が関係してるんじゃないかしら?」


 アッシュの疑問にエイラが答えた。その本の名前にカイトは反応し、息巻く。


「そう!よく知ってるね!エイラも読んでたの?」

「小さい頃に読んだことがあるわ。確か……勇者が魔王を倒したり世界を回ったりする話だったわね」


 若干カイトの様子に引きつつも本の内容を思い出そうとするエイラ。カイト自身伝説が好きだと言っていた訳では無いが、そういう節があったのでエイラは薄々感じていたのだ。


「なんだよ、戦いの本か?それなら俺も読んだことあるぜ。そのなんたらの冒険ってのは知らねぇけど」

「トールの大冒険だよ。トールっていう勇者が、魔物を操る王様を倒すんだ。それまでにも海底遺跡とか、ダンジョンとかを冒険していくんだよ! 僕が一番好きな本さ」

「へえー、強えの? そいつ」


 興味半分と言った感じでアッシュがカイトに聞いてみる。


「そりゃあもう、強いなんてレベルじゃないよっ! 全部の魔法を使える上に、世界中の魔物を倒したんだから!」

「ほお、そいつはすげぇな。魔法は使えないが、俺が目指してるやつじゃん」

「でしょ!」


 男子2人が少し盛り上がりかけたところで、宿屋に着いた。


「じゃあまた明日、同じ9時に集合ね。明日からもう少し稼ぎに行くわよ」

「そうだね!早く迷宮に行かないと!」

「明日はオークに挑戦したいなぁ」

「いや、さすがに早いですよ」


 それぞれが言い合ったあとそれぞれの2人部屋へと戻っていくのだった。


 部屋に戻った僕は、シャワーを浴びた後すぐにベッドで寝息を立て始めたアッシュを横目に、小さくライトと呟く。

 すると右の手のひらに集めていた魔力が収束し始めた。


 しばらくすると小さな光の玉が手のひらから浮かび上がってきて、明かりを消して暗くなった部屋を仄かに照らす。


「すぅー……はぁ……」


 深く深呼吸して左手の方にも魔力を集める。

 ここまではいい、毎日やってる事だ。

 問題はここから……。

 今日、一瞬だが見かけた情景を思い出しながらその呪文を唱える。


「ウォーターボール」


 すると先程と同じように左の手のひらに魔力が収束して行く。

 その様子を齧り付くように目守る。

 そうしながら30秒ほどたったが、変化は見られず、ただ魔力が収束するように渦巻くだけだった。

 しかしそこで終わらせずに、そのまま魔力を増やし始める。


 額に汗がにじんでくるのを感じる。

魔力が足りない訳では無い。むしろ自分の魔力量には自信があった。

 2つの魔法を同時に発動させることは可能だ。複数の魔法を発動させ、コントロールすることはベテランの魔法士は当たり前に使うことらしい。それにこれが出来ない理由は魔力量が足りないことと、魔力制御が拙いことだ。

 このふたつを今満たしている中、できない理由は無いはずである。


 だが魔力が手のひらに集まり、収束し、濃密になっていくのはわかるが、なかなか発動する気配はなかった。


「……ダメか」


 そう呟いて込め続けた魔力をゆっくり身体の中へと戻していく。

 失敗は今回が初めてではない。

 村にいた魔法士の爺さんに言われた通り、毎日欠かさず練習はしているが、今のところライト以外1度も発動することはなかった。1度もである。


 今回は久しぶりに間近で魔法を見たためもしかしたらと思ってはいたが、どうやら思い過ごしらしい。


 ライトの光を消し、その場で立ち上がってアッシュの隣のベッドに寝転び、目を閉じた。

 浮かぶのは今でも憧れの的である勇者のようにあらゆる魔法を扱う自分であった。

 しかし、その映像も途端に消えていき再び暗闇になる。


 今までの練習を思い出す。

 もう何度失敗したかわからない。

 街中で見た生活魔法や、今回のような攻撃魔法を見てそれらを発動するように毎日練習してきた。

 でも成功した魔法は何一つなかった。

 あるのは子供の頃に発動したライトだけ。


 それ以来、魔法が発動することは無かった。

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