9お茶を入れよう!
その日、空は藤堂に仕事を押し付け屋敷の周りをテキトウに歩き回っていた。
屋敷の裏に来た時、そこには生い茂った雑草と鮮やかな緑の葉が生えていた。
「……ん?なんかこれ見たことあるな?」
空は鮮やかな緑の葉の中から綺麗なものを1枚ちぎり、手のひらの上でよく観察する。
「もしかしたら…」
曖昧な記憶の中から予想するに、それは『茶の葉』であった。
「ソラ…!仕事ほったらかしてどこ行ってたんだ。」
藤堂は屋敷の中を恐る恐る歩く空を見つけ、声をかける。
「あ…!藤堂君!何か入れ物とか持ってない…?」
藤堂は空の手を見る。空は両手いっぱいに茶葉?を持っていた。
「い、入れ物?今はないなぁ…」
「お願い!!無駄にしたくないから持ってきて!!」
「え!?あ、ま、待ってて!」
空の必死さに驚き、藤堂は急いでキッチンへ走る。
そして大きなカゴを持っていき、空が持っていた葉を全部入れた。
「こ、これ何?」
「今からこれ使ってお茶入れるのー!」
空はそう言ってキッチンへ走っていった。
「お、お茶?あんなの使わなくても屋敷に紅茶の茶葉あるのに…」
藤堂は走っていく空を見つめ、ため息をついて仕事に戻った。
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「よーし、気合い入れてこー!」
空は鍋を取り出し暖炉で加熱する
「作り慣れてないからなぁ…失敗するかも…」
鍋を熱しているあいだ葉を水で洗い、十分加熱されたことを確認して、茶葉をゆっくり入れた。
鍋に入れたお茶の葉を木ベラで混ぜ様子を見る。
「よしよし…!」
しばらく炒めた後、鍋から取り出し葉をやさしく揉む。
「あちっ…。よし、これくらいかな。」
水分が少し出てきたらもう一度鍋で加熱し、乾燥させる。
それを繰り返すこと約1時間…ついに茶葉が完成した。
空は茶葉にお湯を優しくかけ、匂いを楽しんだ。
今回作ったのは煎茶。日本を代表する緑茶の一つだ。
「えへへっ!せっかくだし、先生と藤堂君にもご馳走しよー!」
空は2人の驚く顔を想像しながらセオドールの執務室へと向かう。
「先生、藤堂君ー!一緒にお茶飲もう!」
勢いよくドアを開ける。そこにはいつも通り2人が仕事をしているはずであった…
「あら?この子がソラ?」
セオドールの隣に座るのは、今にも消えてしまいそうなほどの透明感を持つ女性であった。
「先生、この人誰?」
「…ソラ、失礼だよ。」
「いいんだウィリア。ソラはまだ彼女と面識がない。」
「そうですわね。では私から自己紹介を」
「私、マリアンヌ・ホークショーと申します。以後お見知り置きを。」
そう言ってニコリと微笑む
「お、奥様!そんな謙虚な…!」
「いいのです。私はどんな立場の者でも敬意を払うのがモットーですの」
空は今の会話から彼女が何者なのかを察する。
苗字の共通性、奥様と呼ばれていることから彼女は
「お姉さん、先生の奥さんでしょ!」
「馬鹿…!気づいたなら無礼のないように…」
「ふふっ。大丈夫ですよ、今日から私の侍女となるのですから親交を深めておかないと」
「ほら奥様もこう言ってるよ! 全く、藤堂君は頑固だなぁ…。」
「…え?」
空はマリアンヌの発言に疑問を持つ
「じ、侍女?」
「ああ。ソラは女性だからこのままヴァレットをすると色々と問題が発生するんだ。」
「確かに…。それで私が奥様の侍女に?」
「ええ!これからよろしくね。」
(き、急展開すぎる…)
空はマリアンヌ・ホークショーの侍女となった。
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「ところで先程、お茶がなんだとか言っていたね。」
「あ!そうだった。作ってみたから飲んでみて!」
藤堂とセオドール、そして自分の分をマリアンヌに渡す。
「さあ!召し上がれ!」
最初に藤堂が口を付け、ゆっくり口の中に注ぎ込む。
「!?…ゴホッ」
「ウ、ウィリア!?」
藤堂が一口飲んだ瞬間、吐き出したのを見てセオドールは驚愕する
「に、にがっ!!」
「あー…。お子ちゃまには美味しさが分かんないか…」
「お、お子ちゃま…」
それを聞いたセオドールは何を思ったか、煎茶をいきなり飲み干した
「…先生!?」
「私は大人だ…大丈夫、大丈夫…」
「大丈夫ではなさそうですわ」
「もー、美味しいのに…」
「では次は私がいただきますわ。」
「マ、マリアンヌ…!やめろ!?」
セオドールが止めようと手を伸ばすが、煎茶でダメージを負い力尽きる
「奥様、どうかな?」
「……」
「お、奥様?」
「…確かに、苦みがありますわね。甘いお茶菓子と一緒に飲めばもっと美味しそうです!」
「お、奥様ー!!わかってるぅ!」
空はガッツポーズをし、作った甲斐があったと喜ぶ
「ソラ、よかったらまたこのお茶を淹れて。今度は私のお気に入りのお菓子と一緒にティータイムとしましょう?」
「喜んで!!」
空はまたお茶を作ろうと決心した。