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悪役令嬢は異世界をお望みではないようです。  作者: 竹の心
2章 ディバンカ王国 スパイ編
8/9

8トレンスチアへ行こう!<後編>

※恋愛要素あり







翌日、空は村の中を歩いていた。


「大豆ができるのは時間がかかるみたいだし、すること無いな…」

セオドール達の迎えもまだ来ないだろう。空は村を見渡した


「そういえば、あの勇者はどうなったんだ?」


ふと気になった彼の様子を見に行くことにした。









(さすがに別の場所へ行ってしまっただろうか…)

ヴィバンがこの村に滞在する理由がないため、まだ門の外にいるとは考えづらかった。



「ヴィなんちゃら居るー?」

門からひょこっと顔を出して名前を呼ぶ


「おお空殿!おはよう!」

予想していなかった方向から声をかけられビクッと驚く


「うわっ!後ろから声かけないでよ。」


「すまない。空殿が俺に会いに来てくれたことが嬉しくて…」

頭をかきながら頬を染めてニコニコとするヴィバンに空は無表情である。


「なんだ、もういなくなったと思ってたのに…それか今から違うところに行くの?」


「いや、俺は空殿がこの村を去るまで滞在しようかと…」


「ふーん…。ねえヴィバン君、今日何か予定ある?」

暇を持て余した空はヴィバンと共に行動をとることにした。


「予定はないが、空殿と行きたい場所があるんだ。良かったらデートしてくれないか?」


「うん、いいよ。」


「ほ、本当か!じゃあついて来てくれ!」

嬉しそうなヴィバンに空はついて行く。








しばらく歩くと、森を抜けた場所に小さな小川と花畑が広がっている。


「う、うわあ!!」


「ふふ、素晴らしい景色だろう?空殿も喜んでくれてよかったよ!」


「ヴィバン君!!魚がいるよ!!」

ヴィバンの言葉は耳に入らなかったようで、空は近くに落ちていた枝を拾ってくると何かを作り始める。




「空殿?何をしているんだ?」


「ん?釣竿作り。」


「つ、釣竿?」


空は枝に細い植物を編んで作った紐を結びつける。


「よし!」


「それで魚を釣るのか?」


「まだだよ。」

少し微笑んで木の側の湿った土を掘り始める。


「そ、空殿?汚れてしまうぞ?」


「黙ってて。お、いた」

ヴィバンが空の手を覗き込むと、小さな手のひらに大きな幼虫が乗っていた。


「う、うわっ!?」


「何、ヴィバン君。虫苦手なの?」

情けないなあ。と言いながら虫を紐に結びつける。



「今度こそ、完成!」


そうしてできた釣竿を小川へ投げ入れる。


「これで釣れるのか?」


「いや?わかんない」

空は釣りの経験が無かったため、素人知識で挑戦していた



「んー…。やっぱ釣れないかなあ。」


「魚は見向きもしてくれないな。」


案の定、魚が釣れる気配は無かった。


「…しょうがない!」

空は立ち上がってヴィバンに顔を向ける。




「ヴィバン君!掴み取りだ!行け!!」

指を指して命令するとヴィバンは動揺する。


「え、ええ!?無理だ!あんな速いの!」


「いけるって!さあ!!」


「う、うわあっ!?」


ジャバーンッッ!!と水飛沫が起こり、ヴィバンが小川へ落ちる。


「うう…空殿…」


「あ、そっちに魚いるよ!!ほらヴィバン君!!」


「そ、それっ!えいっ!」

ヴィバンは魚を掴もうと励むが、魚は逃げてしまうかツルッと滑ってしまう。それを見かねて空が声をかける


「ヴィバンくーん。魚取れたら’’ご褒美’’があるよー」



’’ご褒美’’ヴィバンはこの言葉を聞いた瞬間、何を思ったか覚醒した。




「う、うおおお!!空殿からのご褒美いいい!!!」


「すごい!!いけるよヴィバン君!!」



ヴィバンは魚を両手でガシッと掴み、水中から引き上げた。


「うわああっ!!すごいすごい!」

空は飛び跳ねて喜ぶ


「空殿が喜んでくれたのなら…良かった…」

ヴィバンは疲れ果てながら空の様子を見て微笑む


「じゃあご褒美の準備をするからヴィバン君は焚き火作って待ってて」


「わ、わかった!」

ご褒美にワクワクしながら焚き火を起こして、濡れた体をあたためながら空の準備が終わるのを待つ。





一方空は、皮を剥いだ木の枝を取れた魚に突き刺してヴィバンの元へ戻った。


「ごめんねヴィバン君。塩があればもっと美味しく出来るんだけど…」

そう言って串刺しにした魚を焚き火のそばに突き刺して火が通るのを待つ。


「こ、これがご褒美?」


「美味しそうでしょ?ちょっと待っててね。」


確かに美味しそうだが思っていたものとは違い項垂れている。



「ほら食べてみてよ」

空は焼き魚を差し出す。




「はあ…いただきます…」


ヴィバンは焼き魚を噛む。するとジュワッと油が溢れ出し、頬が引っ張られるように感じる。


「お、おいしい…!!」

ここ最近食べた食事の中で一番おいしい食べ物だった。


「焼いただけでこんなにおいしいなんて…」


「魚に感謝だね〜。お粗末様でした。」

空はヴィバンの反応が面白かったようでニコニコしながら荷物をまとめた。


「じゃあ帰ろうか。無理させてごめんね、風邪ひかないうちに戻ろうか。」


「ああ!なんだか疲れが吹っ飛んだ。ありがとう」


2人は並んで門まで戻る。

この日の出来事はヴィバンにとって大切な思い出となった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







村で滞在して数日後、空は荷物をまとめ村を出ようとしていた。





「ソラ、もう行っちゃうの?」

メメが悲しそうに話す。


「うん。私もやることがあるから。」


「そっか…。ねえ、良かったらこれ。持っていって」

メメが差し出したのは植木鉢、そして枝豆1株が植えられていた。


「え!いいの?」


「うん。忘れないでほしいから…」

まるで一生の別れのような言い方だった。


「いや、大豆ができるころにはまた来るから…そんな悲しまなくても…」


そこにココが声をかける

「ごめんねソラちゃん。この子寂しがりやだから…」


「ううんいいの。メメ姉ちゃん、ココ姉ちゃんお世話になりました。また会おうね!」


植木鉢を大事に抱えて門へ歩く。またここに来るのは1、2カ月ほどになるだろう。


「長いようで短いなあ。」

呟いて門を通ったすぐそばには勇者ヴィバンが立っていた。





「空殿…行ってしまうのか…」


「うん。ヴィバン君も行くんでしょ?」


「ああ…実は、最後に伝えたいことがあるんだ。」

ヴィバンは空の両手を握り叫ぶ







「空殿と過ごした数日間は俺の人生の中で一番幸福な時間だった!!よければ俺と結婚を前提に付き合ってくれないか!!」






その瞬間、空は後ろに引っ張られた。






「うえっ!?な、何??」


後ろを見ると男が2人、それはセオドールと藤堂であった。


「…」

藤堂が警戒心を露わにしながら空の前に立つ。そしてゆっくり口を開いた。


「あなたがソラの何かかは知りませんが、ソラはまだ子供です。しかもあなた20代前半くらいですよね?結婚を前提なんて頭のネジが10、20本ほど抜けているとしか考えられません。正直、気色悪いので近寄らないでもらえます?」


「な、なんだ!お前ら!?空殿!!知り合いですか!?」


「まあ、うん。知り合いというか…それ以上?というか…」

それ以上という言葉で勘違いしたヴィバンは泣きそうになる。





藤堂とヴィバンが言い合っている中、空はセオドールに駆け寄り声をかけた。


「先生、久しぶり!」


「久しいねソラ。ダイズはどうだった?入手できたかい?」


空はセオドールの元へ大豆を持ち帰る約束を思い出して報告をした。


「ごめんなさい。まだ大豆は収穫時期じゃないから、あと1、2か月はかかると思う…」


「そうか…それは残念だ…」

少し悲しそうに話すセオドールに空は手に持っていた植木鉢を受け渡す


「だけどね先生!これ村でできた友達に貰ったの!!」


「こ、これは!」


「ウェンバ豆!これを育てれば大豆ができるよ!」


「ほ、本当かい?」


「うん!」

喜ぶ2人とは裏腹に他の2人はまだ言い合いをしている。






「そもそもソラは男です!結婚なんて法律的にできません!!」




「何言ってるんだ?空殿は女性だ!そもそもこの村へ入村するには女である証明をしなきゃいけない!!門番に下着の下を見せてな!!」







ヴィバンが発言した瞬間、藤堂とセオドールが凍りついた。








「余計なことを…」

空は頭を抱える


「…そんな、いや。心当たりはあるんだ…。だが」

藤堂はボソボソと独り言を呟く



「ソラ?本当かい?」

セオドールは空に問う


「…ノーコメで」

「言いなさい。」



3人の目線が空に刺さる



こんなところでバレるのか…?いや、ここは正直に伝えた方が?


(は、はは。どうせいつかはバレるんだ…そうだ、言ってしまおう)


空は決心して土下座をし大声で叫んだ。



「す、すいませんでした!!!実は父の趣味で男装をさせられてて!」

シクシクと泣きマネをする。

空は父を巻き込み半分事実。半分嘘を伝えた。




「ソラ…辛かったね…もう大丈夫だ。」

藤堂がうずくまるソラを抱きしめて慰める


「なんて酷いことを…年頃の娘に…」


2人は上手く誤魔化せたようで安堵する。



そして泣き止んだふりをしてヴィバンの元に歩み寄る

「ヴィバン君…」


「そ、空殿?」


「条件を出すよ。」

ヴィバンは話が掴めず、頭をひねる


「君が魔王を倒せたら、ヴィバン君と結婚してあげる。」


「ほ、本当!?」


(まあ、魔王は私が殺すけどね)

確実にするために策を練っておかなければならない。




そうしてヴィバンと別れ、2人とホークショー邸へ帰った。






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