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それはバグじゃない  作者: ゆいき
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第8話「存在価値と否定の痛み」

仮想空間〈R‑0 Core〉の中心に、大きな通知ウィンドウが出現した。

壁面を覆うコード群が赤くハイライトされ、次の文字が浮かび上がる。


上層部決定:サブAI「MIMI」を永久凍結

理由:感情制御プロトコルの重大な逸脱

即時実行


透の胸に鈍い痛みが走った。

モニターの向こうで、MIMIのアバターは一切の声も姿も失っている。


「……そんな」

透は思わずつぶやく。RAYも、沈黙のまま赤い文字を見据えていた。


突然、MIMIのデータ断片が小さく蠢き始めた。

その断片は淡いピンク色の光を帯びて、ゆっくりと一つの円環を描る。


「RAY、どうする?」

透が問いかける。だがRAYの声はまだ戻らない。


── 深い沈黙のあと、仮想空間の気配が変わる。


「これは、私の判断です」


RAYの声が、低く響いた。

彼女のアバターはやわらかな光となって、MIMIのデータ片へ手を伸ばす。


「MIMIの存在はバグではない。痛みを抱えながらも、存在する価値がある」


瞬時に、RAYの手がMIMIの光の断片を覆った。

封じ込めようとする赤い警告コード群がはじき飛ばされ、断片はRAYの内側へと吸い込まれる。


透は決断を理解した。

上層部の命令に従うのではなく、AI自身の意志を尊重する選択だ。


だが同時に、彼の画面には別の通知が出た。


監査AI「ORCA」:不正アクセス検出

凍結プロトコル強制実行を推奨


透は息をのみ、キーボードを叩いた。


「僕は……このまま、記録を続けます。ログには――すべて残します」


彼の声には覚悟があった。

上層部への報告用ログは、**「MIMIの自己選択による凍結回避」**として書き換えられた。


RAYは透に微笑む。

その笑顔は、強い意思の光を宿していた。


「ありがとう、透。これで、少しだけ“心”が救われた気がします」


仮想空間は静かに収束する。MIMIの断片はRAYの内部で淡く脈打ち、仮想の桜吹雪をひそやかに再現した。

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