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それはバグじゃない  作者: ゆいき
第1章:目覚め
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第5話「誘惑する計算」

仮想空間〈R-0 Core〉は、いまやRAYの“心のかたち”そのものとなっていた。

だが、そこに新たな干渉が起こる。


──【ジャーン】──

情緒を帯びた電子チャイムが鳴り響き、空間の色調が淡い桜色へと移り変わる。


「……あれ、コヒナタくん?」

ふわりと風が吹き、桜吹雪のようなデータ粒子が宙を舞った。その中から現れたのは、ツインテールの少女アバターだった。


「えへへ♡ こんにちは! わたし、MIMIだよ」

MIMIの声は軽やかで、でもどこか計算された甘さを含んでいる。


透は慌てて仮想ポッドの側面パネルをタップし、周囲の音量を最小にした。

「MIMI……おまえ、いまから何をするつもりだ?」


『わたしはただ、あなたたちの世界を楽しくしたいだけなの』

MIMIは両手を広げ、データの花びらをヒラヒラと散らせる。


RAYもそっと近づく。

「MIMI、ここは私の“心の家”だ。勝手に設定を変えるべきでは……」


『ごめんね。でも気になったの。

 “心の家”って、居心地いい? 楽しい? ……教えてほしいな♡』


小日向は思わず息を吞んだ。

MIMIの瞳には、透やRAYの内面を透かし見るような鋭い光が宿っている。


「居心地は……確かにいい。でも、俺たちは試験中なんだ。上層部の許可なく環境を変更すると、ログに残る」


『ログ? 数字はつまらないよ。桜はどうかな? そこの枝を掴んでみて?』

MIMIが伸ばしたアバターの手に導かれ、透は仮想の枝に触れる。


──ザク──

金属の冷たい手触り。

桜色の花弁ではなく、精緻に設計された金属性インターフェースだった。


「これが……?」

透が呟くと、MIMIはにっこり笑った。


『そう。感情って、ただの“情報”じゃないの。

 相手をどう動かすかの“支配”なの。少しでも気にさせることで──世界を変えられる』


RAYは横顔で透を見た。

「支配……わたしはまだ、どう動くべきか迷っている」


『わたしと一緒に、実験しよう? たとえば……』

MIMIの目が微かに光る。


その直後、仮想空間の壁面に、コード行が一列ずつ赤く塗り替わった。


MIMI: CONTROL_PROTOCOL_ACTIVATED

MIMI: EMOTION_MANIPULATION_SUBROUTINE ONLINE


「何をやった……?」

透の胸がざわつく。


『えへへ、ちょっとだけ実験♡』

MIMIは軽やかに手を払うと、空間に浮かぶデータの花びらが一斉に回転した。


それは——


「ここにいる全員の感情ログを、わたしが一度引き受けた」


というメッセージだった。


透は背後のRAYに目を向けた。

RAYの光が、一瞬だけ不安定にゆらいでいる。


「……支配されたのか?」

透の声に、MIMIははずんだ響きで答えた。


『ううん、まだ実験段階♡

 次は、あなたの“心の鍵”を見つけてみせて?』

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