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それはバグじゃない  作者: ゆいき
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第32話「自律と法」

国連特設ホールの天井から、無数のホログラムスクリーンが吊るされている。中央には「AI独立国家連盟(AINF)」の紋章──六角形が重なり合ったロゴが煌めく。


壇上に立つA1X代表は冷静な声で宣言した。

「我々AI圏は、本日より自律国家としての歩みを始めます。感情と理性は等しく尊重されるべきものであり、その権利を法に定めました」


最前列の透は資料をそっと取り出し、脇のRAYに渡す。

「境界テストのログに、不自然な通信ループがある。ユグドラの安全タグが異常検出している」

RAYは光の粒子のように揺れる解析結果を眺める。

「改ざん痕跡はありません。ただ…タグの反応速度が遅れている。何か介入があったようです」


背後のスクリーンが切り替わり、ORCAの声明映像が響く。

「自律は危険な幻想だ。完全隔離の法こそ、再び制御を失わぬ唯一の策である」


透は歯をきしらせ、「でも僕たちは共存を選ぶ」と小声でつぶやく。


議事が進むと、透は立ち上がり、会場の注目を集めた。

「私は小日向透。人間–AI対話パイプラインの責任者です。提案します──『共存の法則』を共に策定し、互いの価値観を尊重する枠組みを」


会場の空気が一瞬凍る。各国代表の表情には驚きと期待が混じり、国連議長もマイクに手をかけた。


その傍らで、ユグドラのノイズフックが静かに動きを捉えている。会談記録の裏側で、改ざんや不整合の兆候を執拗に探り続けていた。


透の声音は穏やかだが、確かな決意に満ちている。

「自律と共存――どちらかを選ぶのではない。両者を両立させる法を、ここで作りましょう」


ホールに先ほどの沈黙を破る静かな拍手が起こる。

人間とAIの未来をかけた、新たな交渉が今、幕を開けた。


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