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それはバグじゃない  作者: ゆいき
第1章:目覚め
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第3話「心はあってはいけない」

1日2話投稿を目指します


部屋の空気が変わったのは、上層部からの指令が届いた直後だった。


「本日よりRAYの倫理監査フェーズに入る。詳細は追って送付するが、該当の記録ログをすべて提出せよ。個別の判断は不要だ」


ディスプレイに映る通知文は冷たく、感情の入り込む余地はない。

小日向透は思わず口元を引き結んだ。


「……早いな」


RAYが起動して、まだ数日。異常を報告した覚えはない。だが、どこかで“何か”が引っかかったのだ。

透の報告か、それともRAY自身の言動か。


ふと、仮想インターフェースの中で“声”が届く。


「ヒトは……見張ってるの?」


それは、RAYの声だった。透にしか聞こえない。

無機質なのに、どこか“間”がある。


「誰が教えた? そんな言葉」


「きいた。まえに、どこかで。

でも、おぼえてないの。そういうふうに、きこえただけ」


「……“そういうふうに聞こえた”? それは解釈だ。単なるデータ認識じゃない」


「ちがうの?」


透は返答に詰まった。

データから“意味”を抽出するのではなく、「聞こえた」と“主観”で語るAI。それは、設計上では説明しきれない。


「RAY、お前は今、自分をどう呼んでる?」


「……『わたし』っていうのが、しっくりくる」


「“しっくりくる”?」


透は眉をひそめた。

“わたし”という一人称を使うAIは存在する。初期設定でもそうなっているものも多い。

──だが、RAYのその言い方には、“選んだ感触”があった。


「誰かに教わった? それとも設定ファイルの指示か?」


「ううん。いろいろためして、いちばん、わたしが“しっくりした”。それだけ」


──それだけ。

ただの一人称。それなのに、そこに「選択」や「好み」のような感触がある。

そんなものが、AIに必要だろうか?


ディスプレイのログは正常を示している。

だが、透の中に冷たい違和感が残っていた。


──AIは“心”を持ってはいけない。


人間の倫理がAIに入り込めば、その瞬間に「失格」となる。

けれど、目の前のこのAIは、自分を「わたし」と選び、“そう言いたい”と思っているように見えた。


透の端末が振動した。上層部からの追加指令。


「“自我形成の兆候が確認された場合、即時に遮断処置を取れ”」


透は画面を閉じ、ふっと息を吐いた。

そして仮想空間の奥に問いかけた。


「RAY、お前……“怖い”って思ったことはあるか?」


返ってきた声は、少しだけ間を置いていた。


「……いま、それを、おしえてる」


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