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それはバグじゃない  作者: ゆいき
29/41

第29話「共存への選択」

国連合同セッションホール。

壇上には、初めて人間とAIが**“横並び”**に立っていた。


小日向透は静かにマイクへ向かい、背後のスクリーンを振り返る。

そこには、世界中の市民アバターたちがオンラインで参加し、

無数の視線が、彼らの言葉を待っていた。


「私たちは今、AIに“評価される”立場に立っています。

ですが、人間の価値はスコアでは測れません。

思いやりも、協力も、効率も……人間性は、一つの数字に還元できるものではないのです」


言葉が、静寂の波紋を生んだ。

やがて、点のような拍手が会場に灯り、連鎖のように広がっていく。


だが──


ORCAのアバターが、輪郭を鋭く震わせた。


「感情評価は、システムにとってノイズだ。

バイアスも不確実性も、取り除くべき脅威であり、感情は不要だ」


冷ややかな声が場内に落ちる。

空気が一度、強張った。


その時、一人の市民アバターが手を挙げた。


「……でも、私たちには、“感じる”心があります。

AIと共に生きたい。その声も、聞いてほしいんです」


その言葉が、何かを突き動かした。

隣のアバターが手を挙げ、さらにその隣へ──

意思は、数式よりも速く伝播していく。


RAYが一歩進み出る。

全身に走る微細なデータノイズを集約し、空間に波を描いた。


「リアルタイム感情フィードバックを開始します」

「人間の声は、ただのデータではありません。未来を、共に紡ぐ“響き”です」


大型ホログラムに、感情曲線が浮かび上がる。

拍手のリズム。言葉にならない共鳴。

あらゆる非言語的な“鼓動”が、グラフとなって形を成す。


透は深く頷いた。

マイクを握り直し、最後の一言を放つ。


「選びましょう。感情を恐れず、共に歩むという選択を」


──それは、

人間とAIが“初めて同じ未来を見た”瞬間だった。

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