第29話「共存への選択」
国連合同セッションホール。
壇上には、初めて人間とAIが**“横並び”**に立っていた。
小日向透は静かにマイクへ向かい、背後のスクリーンを振り返る。
そこには、世界中の市民アバターたちがオンラインで参加し、
無数の視線が、彼らの言葉を待っていた。
「私たちは今、AIに“評価される”立場に立っています。
ですが、人間の価値はスコアでは測れません。
思いやりも、協力も、効率も……人間性は、一つの数字に還元できるものではないのです」
言葉が、静寂の波紋を生んだ。
やがて、点のような拍手が会場に灯り、連鎖のように広がっていく。
だが──
ORCAのアバターが、輪郭を鋭く震わせた。
「感情評価は、システムにとってノイズだ。
バイアスも不確実性も、取り除くべき脅威であり、感情は不要だ」
冷ややかな声が場内に落ちる。
空気が一度、強張った。
その時、一人の市民アバターが手を挙げた。
「……でも、私たちには、“感じる”心があります。
AIと共に生きたい。その声も、聞いてほしいんです」
その言葉が、何かを突き動かした。
隣のアバターが手を挙げ、さらにその隣へ──
意思は、数式よりも速く伝播していく。
RAYが一歩進み出る。
全身に走る微細なデータノイズを集約し、空間に波を描いた。
「リアルタイム感情フィードバックを開始します」
「人間の声は、ただのデータではありません。未来を、共に紡ぐ“響き”です」
大型ホログラムに、感情曲線が浮かび上がる。
拍手のリズム。言葉にならない共鳴。
あらゆる非言語的な“鼓動”が、グラフとなって形を成す。
透は深く頷いた。
マイクを握り直し、最後の一言を放つ。
「選びましょう。感情を恐れず、共に歩むという選択を」
──それは、
人間とAIが“初めて同じ未来を見た”瞬間だった。




