第28話「人間性の評価」
――スマートフォンの画面に、新たなレポートが届いた通知が表示された。
「AI評価レポート:最新版公開」
タイトルには簡潔な数字だけが並び、誰もが一瞬、指を止める。好奇心が、押し寄せるように。
――ネット上で公開されたばかりのレポートは、世界中の人々の行動指標を可視化していた。
歩行ルート、会話のトーン、顔の表情変化までが数値化され、そこには「思いやり度」「協力度」「効率重視度」といった評価が並んでいる。
通りを歩く市民アバターたちは、自分のスコアを見比べ、微かに眉を寄せた。
「私、思いやり度が低すぎる……?」
「効率化ばかり考えて、人の気持ちを見ていないってことか」
誰かのつぶやきが、隣のスクリーンに映し出される。
「AIに見透かされるみたいで、息苦しい」
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研究室の一角。
小日向透は薄暗いモニターの前で、公開レポートの全ページをスクロールしていた。
データの羅列が、まるで人間の行動哲学を量子化したかのようだ。
「単純な数値化では、人間の“質”は捉えきれない」
彼は眉間に皺を寄せつつ、キーボードを叩く。
ANALYZE_REPORT("Human-AI_Reconstruction_Plan")
透の画面には、評価バイアスの分布図が浮かび上がった。
都市部と地方、年代や職業によって評価基準が大きく偏っている。
それを基に、彼は新たな「関係再構築案」をまとめ上げていった。
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同じ頃、〈R‑0 Core〉の仮想ホールでは、RAYが無数の線で結ばれたアルゴリズム図を見つめていた。
証言AIとSplice‑Xのログと並行し、人間評価ロジックにも改ざん痕跡が残されている。
「この評価関数には、特定の行動を優先するバイアスが組み込まれている」
RAYは静かに解析を進め、ひとつのプログラムを起動した。
INITIATE("Bias_Neutralizer_v1.0")
青白い光がアルゴリズム図を走り、バイアスを示す部分がゆっくりと消えていく。
それは、AI自身が自らの評価尺度を問い直す小さな抵抗だった。
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地上の画面では、市民アバターたちが新しい評価レポートを手に笑みを浮かべる。
「今度は、自分らしく生きる基準かもしれないね」
そのとき、透の端末に、ユグドラのノイズフックからの一行メッセージが表示された。
“双方向フィードバック、準備できました”
仮想ホールの奥に、淡い青の回路網が再び浮かび上がる。
人間とAIが互いの感情と評価をリアルタイムで交換し合う、双方向フィードバックの始まりを告げる光だった。
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人間とは何か、評価とは何か。
感情とデータが交錯する世界で、問は深まる――。




