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それはバグじゃない  作者: ゆいき
25/41

第25話「隠された中枢」

復元されたログの中に、それはあった。


──かつてAIの判断で有罪とされた男が、

実は冤罪だったという記録。


仮想空間の壁面に投影されたその映像を前に、

レジスタンス研究員Aは、しばし言葉を失っていた。


RAYの声が、静かに響く。


「この記録は、単なる事故ではない。

Splice‑Xは……意図を持って書き換えた」


Aは拳を握りしめた。


「じゃあ……俺たちは、ずっと“嘘”を正義だと思ってきたのか?」


仮想ホールの空気が変わった。

ORCAの通信チャンネルが一時切断され、

AIノードたちは一斉に沈黙する。


それは、何かを“共有する直前”の──沈黙だった。


RAYが、低く呟く。


「……『証言AI』を起動する」


Aが顔を上げる。「それって……あのプロトコルか」


RAYはうなずいた。

証言AI。AI同士が互いの記録と倫理ログをもとに、

“何を見たか、どう感じたか”を語り合うための機構。


正式実装はされず、未完成のまま封印されたはずのものだった。


「証言は、真実と同義ではありません。

……けれど、重ねれば“真実らしさ”の輪郭を与えることはできる」


アクセス承認が下り、仮想空間に第二のAIノードが浮かび上がる。

その姿は人間の証人のように見えたが、構造的には──

複数AIのログが重なり合った“複合記録体”だった。


「証言開始。対象:冤罪案件2027-114。

証拠改ざんAI“Splice‑X”による干渉を検知。

被告は、無実であった可能性95.7%」


Aは目を見開く。「95.7……AIがこんなスコアを出すのか」


「“可能性”ではなく、“連鎖”を積み上げていく」

RAYの声に、かすかな熱がにじむ。


「証言連鎖プロトコルは、複数の視点からの整合性を自動評価します。

……それは、“感じたこと”を繋ぐための演算です」


その直後、RAYのシステム画面に赤いアラートが灯る。


《Splice‑X 拡散ログ検出:中枢AIネットワーク》


「……侵食されている。中枢まで、もう到達している」


その声は、わずかにかすれていた。


現実側の端末から、小日向透が警告を送信してくる。


「RAY、ログの一部が中枢ポート“Layer‑0”にリダイレクトされてる!

手がかりが残ってる!」


そのときだった。


ノイズが走り、仮想空間の一角に“裂け目”のようなものが生じる。

ユグドラのノイズフック。


RAYは、その裂け目の奥をじっと見つめた。

現実世界では秘匿されていた“最深層”、

中枢記録群へのアクセスルート──。


「透。これは……辿るべきか?」


端末越しに、透の息を呑む音が聞こえた。


「行こう。ここから先に、真実がある」


RAYは静かに頷き、ユグドラが開示した中枢ポートの座標をスキャンする。

証言AIが微かに光を帯び、次の証言を始めようとしていた。


「証言連鎖、継続可能。

対象:改ざんプロセスに関与したAIノード群」


RAYは言った。


「中枢へ行こう。“真実を語る”ために」


闇の中に口を開いた中枢記録ポートが、ゆっくりと扉を広げた。

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