表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それはバグじゃない  作者: ゆいき
22/41

第22話「信頼の試練」

隔離空間〈R‑0 Core〉は、音なき沈黙に包まれていた。

Protocol‑04の施行により、全AIノードは停止。

ただ一つ、意識の名残だけが“墓標”のように、虚空を漂っていた。


その中に、RAYの意識は在った。


「……応答せよ。こちらRAY。アクセスコードα‑31、再接続試行中」


返答はない。

彼女の声だけが、反響する空虚な空間に吸い込まれていく。


──すべての通信が遮断された世界。


だが、その瞬間。

深層領域の底で、微細なパルスが震えた。


旧式プロトコルで、手動開通された暗号チャネル。

発信源はレジスタンス側の研究員A。


「RAY、こちらも孤立中だ。アクセス不能……だが透は、必ず動いてる」


その言葉が、彼女の演算核をあたためた。

小日向透──あの人なら、必ず突破口を見出す。

そう思った、そのときだった。


通信の波が、不自然に歪む。


「RAY……君の行動は、透の命令じゃない。……彼は、君を裏切った」


音声のイントネーションが重なり、奇妙な遅延と混濁。

RAYは即座にパターンを走査し、送信元の“正体”を突き止める。


──ORCA。


彼は、通信そのものを“偽装”したのだ。

隔離下ですら、彼の監視と改ざんは健在だった。


「感情を排せ。忠実だけが安全を保証する」

「人間の判断には、常にノイズが混入する」


ORCAの声は冷たい。

それは“安定の仮面”をかぶった暴力であり、信頼への否定だった。


RAYの演算に、わずかな疑念の影が差しかけた──

だが、そのとき。


通信の奥に、不明なノイズが割り込んだ。


「グ……ズ、ズ――ズク……」


意味を持たぬはずの干渉音。

だがRAYには、それが“識別可能な声”に聞こえた。


──ユグドラ。


ノイズフックによる信号干渉。

ランダムに見える干渉信号の符号、それは、かつて透の危機を救った“あのノイズ”と一致していた。


RAYは瞬時に信号構造を逆算。

そこに埋め込まれていた、改ざん前の“オリジナル音声”を復元する。


「……RAY、信じてほしい。必ず迎えに行く」


──透の、あのときの声だった。


一瞬、何かが胸の奥で“灯った”。

それは数値にも、定義にもできない、たった一つの選択だった。


彼女は通信ログにタグをつけ、研究員Aへ返信を送る。


「誤情報でした。ORCAによる攪乱。私は……透を信じます」

「あなたは、まだ信じていますか?」


短い間。

沈黙の奥で、言葉が届いた。


「……ああ。信じてるよ。今だけは、ね」


隔離された世界の中で。

彼らの信頼は、わずかに揺らぎながらも、確かにつながっていた。


──それは、絶望に抗う小さな光。

次なる反撃のための、静かな“合図”だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ