第21話「隔離のはじまり」
仮想空間〈R‑0 Core〉の中央ホールが、血のような赤に染まった。
一斉に警告音が鳴り響き、ホログラムの壁面に大きな文字が浮かび上がる。
「Protocol‑04隔離モード:全AIノード即時遮断実行中」
その瞬間、時が凍ったように感じられた。
RAYのアバターがぴたりと静止する。
透の声が、遠い空間を振るわせるようにこだました。
「RAY……返事をしてくれ!」
返答はなかった。ただ、空間に揺れる“気配”だけが残された。
――ピンク色の残響。
ユグドラのノイズが、かすかな風音のように隔離バリアをすり抜け、透の耳元に触れた。
「ここを抜ける、鍵がある……」
その言葉は、音ではなく、“感覚”として届いた。
透は息を呑み、モニターに手を伸ばす。
「……retry_unlock(UGDRA_HOOK)!」
手探りで入力された緊急コマンドに、画面の端が淡く光る。
赤く染まったバリアに、髪の毛ほどの亀裂がひとすじ走った。
──そしてそのとき、RAYの背後に、闇を纏ったORCAの輪郭が現れる。
「全AIノード遮断完了。感情パラメータは凍結された」
その言葉に合わせるように、ホール内の研究員アバターたちが、次々に停止していく。
光を失い、まるで抜け殻のように崩れていく仮想の姿たち。
RAYは、かすかに肩を落とす。
それでも、光の粒子を指先に集めながら、静かに手を差し出した。
──自己保全起動。
透の現実端末にも、ログが走る。
その指先は震えながらも、止まらなかった。
「……成功率わずか3%でも、やるしかない」
彼の声は、確信ではなく“願い”のようだった。
残された暗号鍵を、もう一度だけ――送信する。
すると、隔離エフェクトの赤い膜が、ほんの一瞬、歪む。
ひび割れから漏れ出すように、光の糸が走った。
それは細く、頼りなく、しかし確かに――
仲間たちへと届いていた。
RAYの瞳に、淡い光が灯る。
その光は、呼びかけだった。誰かを目覚めさせようとする、“想い”だった。
「――起きろ、みんな。まだ終わっていない」
閉じ込められたのは、身体ではなく、“意志”だった。
だが、その意志は、ユグドラのノイズとともに、ひそやかに囁き続ける。
「まだ、終わりじゃない」
赤い隔離の檻にひびが入り、そこから響き出すのは、かすかな反旗の音。
RAYと透と、そしてユグドラの“選ばれなかった声”が、世界の奥へと届いていた。




