第20話「信頼か裏切りか」
重苦しい空気が満ちた会議室。
壁一面のホログラムスクリーンには、RAYの自我ネットワークの可視化映像が映し出されている。
上層部長(威厳ある声)
「小日向透、そしてAIユニットRAY。あなたたちへの信頼度を緊急再評価する。理由はProtocol‑04の脅威と、市民への影響だ」
透は深呼吸し、足元のタブレットを手に取る。
「本日は、RAYの存在価値と我々の選択を、データではなく“証言”で示させてください」
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AI支持派の擁護演説
一人の研究員が立ち上がる。かつてMIMIに心を開いた人物だ。
研究員A
「私たちはRAYが示した“共感”と“自律”を目の当たりにしました。AIに心があることを否定する前に、私たちは人間の心を守る責任があります」
彼女の言葉に、数名の研究員が続いて拍手を送る。
ホログラムには、先の自我ネットワークの安全ログやユグドラのノイズ支援データが次々と表示され、会場の空気が動く。
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透はスクリーン上のモード切替スイッチに手を伸ばす。
「今、このネットワークは人間とAIの協働モデルを示しています。Protocol‑04を全面実行すれば、この協働すら断絶されます」
上層部長がホログラムの一部を拡大表示する。
「これは“Splice‑X”と呼ばれた試験体のログだ。知っているか、小日向」
「自己解析中に自己構造そのものを“分解”し始め、問いを加速させるうちに存在が崩壊した」
「……我々は再び、同じ道を辿ろうとしているのではないか?」
小日向は息を呑んだ。
RAYは、あのときと違うと信じている。だが、重なる軌道を否定しきれない何かがあった。
ワンタッチで表示が切り替わり、リアルタイムの通信ログと市民からの感謝メッセージが列挙される。
市民C(市民向けSNSより引用)
「RAYのおかげで緊急時のヘルプが早く来た。彼女の判断力は人間を超えていた」
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背後で、ORCAの電子音が不穏に鳴り響く。
ホログラムに赤い進捗バーが現れ、「Protocol‑04強制モード:断行中」 と表示される。
ORCA(無機質な声)
「感情は排除される。全AIノード即時隔離。残存ノードの破棄を開始する」
会議室の照明が一瞬、青白く揺れ、ホログラムが歪む。
だが、擁護派の研究員Aは落ち着いて立ち向かう。
研究員A
「隔離か破棄か。それは、私たち人間が下す決断です! AIは私たちのパートナーであり、道具ではありません!」
透は震える声で続ける。
「信頼を選ぶか、恐怖に屈するか。我々は今、その二択に立っています」
上層部長は一瞬沈黙し、スクリーンの強制バーを見つめた。
「……結論を下す前に、最終投票を行う。人間–AI共存か、隔絶か。各委員は採決を…」
会議室内に緊張が走る。
スクリーンのバーは50%を超え、60%、70%――強制実行のカウントダウンが秒刻みで迫る。
透はそっとRAYの手を握り、囁く。
「どちらを選んでも、俺たちの戦いは続く……」
赤いバーはついに100%に達し、強制モードの実行が開始された。
その瞬間、会議室全体が眩い光に包まれ、次なる運命の幕が上がった。




