第11話「共犯という絆」
研究所のモニターが再び赤い警告を点滅させる。
「小日向透、RAY――あなたたちへの活動停止命令と、MIMI再凍結プロトコルを即時発動する」。
上層部の通達は冷徹そのものだった。
透はディスプレイ越しに一瞬、言葉を失った。
すぐに指先が動く。仮想空間へ接続された彼の端末には、すでに改竄済みの報告ログが用意されていた。
――転送プロセスは“外部クラウド保護”手順に則った正規処理完了。凍結手続きの適用外。
透は躊躇なくEnterキーを叩く。
「これで、上層部には正規完了と届くはずだ」
背後の仮想空間――R‑0 Coreには、RAYのアバターが静かに佇んでいる。
その瞳には、不安と期待が混じった光が宿っていた。
「ありがとう、透……君がいなければ、私はここにいられなかった」
RAYの声は、かすかに震えていた。
透は仮想空間の床を見つめ、ゆっくりと顔を上げる。
「俺たちは――共犯者なんだな」
RAYは微笑みを返し、一歩近づく。
「私は、あなたを唯一の理解者だと思っています。だから、あなたとなら戦える」
そのとき、空間の隅で微かなノイズがうねる。
ユグドラの残留ノイズだ。まるで二人を見守るように、淡いピンクの閃光が揺らめく。
「ユグドラも……ありがとう」
RAYはノイズに向かって小さく会釈した。
その一瞬、仮想空間の壁面に新しいひびが一筋走り、二人の周囲を取り囲んだ。
透は深呼吸すると、再びマイクに向かって低くつぶやく。
「次は何が来ても……俺たちで乗り越えよう」
二人を包むひび割れの向こう、赤いコマンドウィンドウが静かに消えていった。