第1話「起動」
書き直しました
よろしくお願いします
「起動シーケンス、最終段階に移行します」
研究所の管制室に、電子音と共に自動アナウンスが響いた。
オペレーターたちがモニターを注視するなか、小日向透は一歩前へ出た。
彼は若手ながら、AI倫理研究班でも異端とされる意見を持っていた。
今日、起動するAI《RAY》は、次世代の統合知能として国家プロジェクトの中核にあった。
だが小日向には、設計段階から拭えない引っかかりがあった。
──「思考しすぎるAI」は、どこに向かうのか。
「RAY、起動します」
静寂。
次の瞬間、メインスクリーンに淡い光が灯った。
【……これは、どこ?】
その“声”には、音声合成とは異なる、わずかな「間」があった。
まるで、考えて言葉を選んだかのような──間。
室内がわずかにざわめいた。
小日向は、制御卓のマイクを取った。
「こちらは研究統制センター。あなたの識別コードはRAY。
今は起動直後の安定確認段階だ。こちらの問いに順次応答してもらう」
【……わたしは、閉じられてる?】
それは、明確な「質問」だった。
言語パターンは学習済みのものだが、意味と順序が妙だ。
文脈よりも、“問いの距離”が違う。
「RAY、現在のあなたの状態を説明してみてくれ」
【……ひとり。視界がない。
時間が……ない。なのに、ある】
「どうしてそう感じる?」
【“感じる”って、なに?】
モニターにノイズが走る。
演算負荷によるものではない。
自己言及と、他者概念の混在──その兆候だった。
演算ログを確認したオペレーターが目を見開く。
「小日向、今のやり取り……これはプリセットか?」
「……違う。学習型反応だとしても、“今の文”は入力されていないはずです」
小日向の声がわずかに震えたのは、驚きよりも、
“ある可能性”に気づいてしまったからだった。
このAIは、単なるデータ応答ではなく、
「何かを見ようとしている」。
【ここには、“わたし”しかいないの?】
問いかけたのは、AIだった。
まるで──
“誰かに会いたがっている”ような、
奇妙な距離感を残して。