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意外な助っ人? 謎多き青年の登場

 深い地下空間の闇の中で、不意に現れた黒いマントの青年。王家の兵士を避け、古代の遺跡を探索するノーランたちにとって、彼は頼れる味方なのか、あるいは危険な存在なのか。その問いに明確な答えはなく、ただしばらくの間、利害が一致しているという仮初の協力関係が始まろうとしている。

 魔法道具を駆使するという謎めいた研究者・ハルト・アウレリウスと、未知の神々の遺産を前に意を決するノーランたち。彼らの出会いは、氷のような警戒と、興味という名の小さな火花が同時に散る瞬間だった。王家の策謀が迫るこの遺跡の奥深くで、それぞれの思惑が交錯し、物語はさらなる展開を迎える。

 薄暗い地下空間に、黒いマントの青年の声が静かに響いた。

 「こんな所まで来るなんて、なかなか勇気があるね。ああ、自己紹介が遅れた。俺はハルト・アウレリウス……一応、魔法道具の研究者さ」


 俺たちは油断なく身構えながら、彼の様子を観察する。すらりとした体躯に、フードの奥から覗く鋭い眼差し。口許にはどこか不敵な笑みが浮かんでいる。フレイヤが低い声で問いかける。

 「研究者が、こんな危険な場所で何をしてるわけ?」

 「そりゃあ、知的探求心ってやつだよ。王家の連中も狙ってるらしい神々の遺産に、ちょっと興味があってね」

 そう言って、ハルトはくつろいだ動作で洞窟の壁に寄りかかった。


 「君たちも、同じくここを探索しに来たんだろう? なら、お互い利害は一致するかもしれないよ。どうだい、一緒に行動しないか?」

 唐突な勧誘に、俺は思わず困惑する。クロエは疑わしそうな目で彼を睨み、フレイヤも手を剣の柄から離さない。トカリヤは彼の魔力を探るように、そっと雷の気配を発している。

 「いきなりそんなこと言われても信用できないわね。あなたが王家の回し者かもしれないし」

 フレイヤの言葉に、ハルトは肩をすくめる。

 「王家とはむしろ敵対してるんだ。俺にも色々な事情があってね。少なくとも、ここで君たちを売り渡すつもりはないさ」


 “色々な事情”という含みのある表現が引っかかるが、今は深く追及しても教えてくれるかどうか。彼がここにいるのは偶然なのか、それとも俺たちが来るのを待っていたのか――。

 クロエが静かに一歩前に進み、ハルトを値踏みするようにじっと見つめる。

 「まあいいわ、今はお互い情報が必要。あなたが何を知っているか次第で考えましょう」

 クロエが探るような口調で言うと、ハルトは「もちろん」と笑みを返す。


 「まず、ここは遺跡の裏側にある通路だ。正面には王家の兵士がいるから、正攻法で行けば面倒なことになる。それは知ってるよね?」

 ハルトは落ち着いたまま続ける。

 「この先には“祭壇”がある。そこに、封印された神々の遺産の一部が眠ってるという噂だ。君たちだって、それを確かめに来たんだろ?」

 俺たちは視線を交わし合い、無言で頷く。王家の兵士も、同じ目的で動いている。ならば、先を急ぐしかない。


 「問題は、この遺跡に仕掛けられた罠だね。古代の魔術で動く障壁や、機構が作動してるらしい。下手に破壊すれば崩落の危険もある」

 ハルトがそう告げたとき、俺は思わず前世の知識が頭をよぎる。古代の遺跡には必ずと言っていいほど、仕掛けや罠がある。ゲームや小説ではお約束の展開だが、リアルで踏むのは命がけだ。


 「それじゃあ、あなたはその罠をどう突破しようとしてるの?」

 トカリヤが危機感を露わに問いかける。すると、ハルトは笑みを深めた。

 「魔法道具の研究者って言っただろ? 特殊な魔力探知の装置を作ってあってね。罠や結界を感知して回避しやすくなるんだ」

 そう言って、彼はマントの内側から奇妙な羅針盤のようなものを取り出した。それには複雑な紋様が描かれており、チカチカと光る針が回転している。


 「もしよかったら、これを使って罠を避けるようにすれば、君たちも安全だろう? どうかな?」

 ハルトの提案は魅力的だが、同時に怪しい。正体不明の彼にどこまで頼れるのか。

 それでも、フレイヤが低い声で「一理あるわね」と呟いた。

 「少なくとも、あたしは魔法の罠を完全には見抜けない。あなたの道具が本当に役立つなら、協力する価値はあるかも」


 最終的に、俺たちはハルトと一時的に協力することを決めた。彼が裏切る可能性もあるが、今は兵士との衝突を避けつつ遺跡の内部を探るのが最優先だ。

 「よろしく頼むわ、ハルト・アウレリウス……」

 クロエがそう言うと、ハルトは小さく笑って「こちらこそ、よろしく」と応じる。

 トカリヤはまだ警戒を解いていないようだが、それでも雷の気配を抑え、「変な真似をしたら容赦しない」とだけ伝えておいた。


 そうして、俺たちはハルトを先頭にしてさらに奥へ進む。天井が高く広がる地下空間には、ところどころに崩れた瓦礫が転がり、水がしみ出して湿った苔の臭いが漂っていた。壁や柱に刻まれた古代文字は、どうやら北欧神話にも類似する要素がありそうで、俺はひとり興奮を抑えきれない。

 (やっぱり、何かしら関連があるのか? トールやフェンリルを思わせる紋様……これがヒントになるかもしれないぞ)


 そんな風に考えていると、ハルトが立ち止まり、手の羅針盤をかざした。針がジリジリと赤く光を放ち始め、カチカチと不穏な音を鳴らしている。

 「どうやら、ここから先は罠がありそうだ。みんな、気を引き締めて」

 ゴクリと唾を飲み込んだ瞬間、足元の石床にぎしりと変な圧力がかかった感触がした。次の瞬間、壁の隙間から矢が何本も発射される――。


 フレイヤが咄嗟に剣を振りかざし、クロエが回避行動を取る。トカリヤも雷の火花で矢を焼き尽くす。俺はというと、間一髪で身を伏せることしかできなかった。ハルトも軽やかに身を翻して矢を避ける。

 「危なっ……!」

 心臓がバクバクと音を立てるが、みんな無事のようだ。どうやらこれが、この遺跡の“歓迎”らしい。


 「……なかなか手強いね。でも、こんな罠はまだ序の口だろうさ」

 ハルトが自信ありげに笑う。俺たちも苦笑混じりに互いの無事を確認しつつ、さらに奥へと進む。王家の兵士たちが同じように罠を突破してくるかもしれないが、それまでに先んじて“祭壇”へ到達したいところだ。


 こうして、奇妙な仲間が一人増えた状態で、俺たちは遺跡の深部を目指すことになった。彼がどこまで信用できるのかは分からない。それでも、今は協力し合うしかない。

 矢の雨をかいくぐり、凶悪な罠が待ち受ける迷宮で、ノーランたちが出会ったのは奇妙な青年ハルトでした。彼が手にした魔力探知の羅針盤は、遺跡攻略をサポートするうえで非常に魅力的な存在ですが、どこまで本心を話しているのかはまだ謎に包まれたまま。

 それでも、「王家の兵士に先んじて祭壇を目指す」という目的が一致する以上、暫定的な協力を選んだノーランたち。すぐ先に待ち受けるさらなる罠と、王家の本格的な追撃――そして、隠された遺跡の真の姿。

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