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魔物との初戦闘…そして無力さ

 闇夜のうちに街を抜け出し、夜明けを迎えたばかりの山道を進むノーランたち。先に待ち構える北の山には、危険な魔物が棲みつき、さらに王家の陰謀もちらつく中、休む暇もなく足を進めるしかない。けれど、戦闘力や魔力を持たないノーランは、自分にできることの少なさに焦りを募らせる。

 そんな中で早速遭遇した凶暴な魔物・ホーントゥスク。圧倒的な突進力にたじろぎそうになるものの、仲間たちとの連携と、ノーランのちょっとした知識が功を奏して、なんとか倒すことに成功した。しかし、彼の中に残るのは安堵よりも、自分だけが“弱い存在”なのでは、という苦い思い。これから先、どんな魔物や試練が彼らを待ち受けているのか――。強くなりたいと心の奥で叫ぶノーランの物語が、いよいよ動き出す。

 夜明け前。街を囲む城壁の裏口から抜け出した俺たちは、北へ続く山道を黙々と歩いていた。所々に立つ街灯が頼りなく揺れる中、ひんやりとした朝の風が肌を刺す。

 「なんとか見つからずに出られたわね」

 フレイヤが肩の荷を少し下ろすように言い、安堵の息をつく。トカリヤもクロエも緊張を解くように歩調を緩めた。俺はといえば、昨夜ほとんど眠れなかったせいで足取りが重いが、気を抜くと魔物が出てきたときに対応できないだろう。

 「北の山まで、歩いて丸一日はかかるかな。途中で休憩も必要だけど、なるべく早く移動したいわね」

 クロエが地図を確認しながら言う。どうやら、この先は森と山が続くため、道中で魔物に遭遇する危険性が高いらしい。ギルドのクエストでも頻繁に依頼が出る地域だ。


 しばらく林道を進むと、朝日が木々の間から差し込み、森に淡い光の筋を作り出す。さわさわと葉が揺れる音と、時折聞こえる鳥の声が心地いい。だが、そんな穏やかな空気の中でも、不安がまとわりつくのを感じていた。俺は戦闘能力がほぼ皆無。この世界で生き延びるには、仲間が頼りだが、それもいつまでも甘えてはいられない。

 (俺も、少しは役に立たないとな……)


 そんなことを考えていると、突如として物陰から猛獣の唸り声のようなものが聞こえた。

 「……来る」

 フレイヤが剣の柄に手をかけ、クロエは弓をすばやく構える。トカリヤはビクッと身体を震わせたが、すぐに雷の魔力を指先に纏わせはじめた。

 音が近づく。地面がどすん、と震えたように思う。林の影から姿を現したのは、体格の大きな猪のような獣だった。頭部には大きな角があり、牙が鋭く屈強な肉体を誇示している。

 「ホーントゥスク……こんなところにいたのね」

 クロエが低く呟く。ホーントゥスクと呼ばれる魔物は非常に凶暴で、突進力が高いと聞いていたが、実物は想像以上の威圧感だ。


 「気をつけろ……あいつ、一気に突っ込んでくるぞ!」

 フレイヤが叫んだ瞬間、ホーントゥスクがゴウッと鼻を鳴らして地面を蹴った。ものすごいスピードで突進してくる。俺は反射的に飛び退いたが、その衝撃波だけで背筋が凍りつくほどだった。

 「トカリヤ、右から雷撃いける?」

 「う、うん、やってみる!」

 トカリヤが集中を高め、指先から奔る光の帯が獣に命中する。ビリビリと火花が散る音が聞こえ、ホーントゥスクが苦しげに咆哮を上げた。しかし、その皮膚は分厚いのか、一撃で倒れるほど甘くはない。

 「フレイヤ、前衛任せていい?」

 クロエが言うなり、弓を引き絞り、魔力を宿した矢を発射する。正確な射撃が獣の横腹を掠め、血飛沫が舞った。


 (すごい……まるで手際がいい)

 俺はその連携に目を見張りながら、しかし自分は何もできない状況が辛かった。剣を握る力量はないし、魔法だって使えない。ここに突っ立っているだけでは仲間の足手まといになる。

 ――でも、ただ見ているわけにはいかない。何かできることはないのか?


 俺は前世で読んだ知識を総動員し、ホーントゥスクの弱点を思い出そうと必死になった。猪系の魔物なら、目や鼻先が弱点になることが多い。角に気を取られるよりも、逆に足元を狙って動きを封じるとか……。

 「足だ……足を狙えば転ばせられる!」

 そう思い切って叫ぶと、フレイヤが瞬時に反応し、ホーントゥスクの前足にスライディング気味に剣を滑り込ませた。ごりっとした嫌な音とともに魔物がぐらつき、崩れた体勢をクロエの矢とトカリヤの雷が一気に襲う。

 「今だっ!」

 フレイヤがもう一度剣を振り下ろすと、ホーントゥスクは大きく悲鳴を上げ、その場に沈んだ。


 「……やった、のか?」

 信じられないほどあっさりと終わった気がしたが、実際は彼女たちの戦力が高いのだろう。俺はただ、足を狙えとアドバイスしただけ。

 フレイヤは大きく息をつきながら、鞘に剣を納める。クロエも矢を回収しつつ、周囲の警戒を怠らない。トカリヤは額の汗を拭いながら俺のほうを見て、小さく笑顔を見せた。

 「ノーラン、ありがとう。あなたのお陰で助かった」

 「い、いや……みんなが強いからだよ。俺は何も……」


 その瞬間、足元が崩れるような虚脱感に襲われた。周囲の仲間が輝いて見えるのに対して、俺は一歩間違えれば取り残されそうな、そんな不安を覚えたのだ。確かに、弱点を見抜いたことで役に立ったのかもしれないが、それでも俺には決定打がない。もし次にもっと強大な敵が出現したら? 前世の本で読んだ知識だけで対応できるとは限らない。


 「ノーラン?」

 トカリヤが心配そうに近づいてくる。俺は無理に笑みを作り、「大丈夫、ちょっと疲れただけ」と答えた。

 (こんなんじゃダメだ。もっと自分にできることを探さないと)


 魔物を倒せたのは良いことだが、俺の無力さがさらに浮き彫りになったように感じてしまう。フレイヤやクロエ、そしてトカリヤは自分の能力や武器を持っているが、俺はなんのスキルも持たない。

 それでも、いまは前に進むしかない。俺は雑念を振り払うように深呼吸し、彼女たちの後を追った。北の山はまだ遠い。もっと多くの試練が待っているだろう。


 (絶対に、足手まといにはなりたくない。それに、前世の俺がずっと憧れていた“ファンタジー世界”なんだ。夢中になっていた知識を活かさなきゃ意味がないじゃないか)


 そうして俺はひそかに決意を固める。ここからが、本当の勝負なのだ。

 無事にホーントゥスクを撃退するも、はっきりと感じ取ってしまった戦力差。自分には剣技も魔法の才能もないと痛感し、ノーランは一層の危機感を抱き始めます。異世界への憧れを胸にやってきたはずが、いざ“本物”と直面すれば、弱さを痛感する場面ばかり。

 しかし、仲間たちとの連携や、前世の知識を生かす場面は確かにあった――それだけがわずかな希望でもあります。果たしてノーランは、ただの“お荷物”で終わるのか、それとも自分なりの活躍の仕方を見いだせるのか。

 次の行程に控えるのは、より険しい山道と未知の試練。王家の調査隊や、謎の“神々の遺産”も絡んでくる気配に、物語はますます熱を帯びることでしょう。

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