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普通人転生-だけど前世知識で世界を変える-  作者: NOVENG MUSiQ
王都潜入戦 -影雷のラスト・レゾナンス-

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51/60

王都旧劇場、仮面と曲芸

城下の影は夜の帳を脱ぎ捨て、外郭に張り巡らされた結界塔の警告灯が紅く脈打ち始めていた。ノーランたちは下水道を抜け、廃墟と化した王立劇場の地下倉庫へと潜入する。かつて貴族の歓声を受けた舞台。それを今や「慈善舞踏会」に偽装して攪乱装置に仕立てるのが、彼らの狙いだ。胸に秘めた思いと緻密な計画が交錯するその舞台裏で、異界の雷は淡い光の演出役を担う──さあ、凱歌の前夜が幕を開ける。

 下水の螺旋階段を抜けた先、朽ちた板張りが足裏に軋みを伝える。そこは王立劇場の地下倉庫――かつて貴族たちの喝采と歓喜が渦巻いた、夢の残骸だった。

 埃を被った舞台装置の間を縫い、ノーランたちは梯子を上る。木蓋を押し上げたイヴが鼻をひくつかせた。

 「香水と絹の匂い……今日は慈善舞踏会みたいね」


 開演ベルが鳴る。黒羽根の仮面をつけた貴族たちが階下の観客席で忍び笑いを漏らし、天井の水晶シャンデリアが星雲のように輝く。舞台袖から覗けば、桟敷最上段の黄金席に宰相レイオス・ヴァルダンの姿があった。

 **「予定外だけど、最高の攪乱装置がいるわね」**クロエが悪戯に目を細める。


 エリーは即興舞台演出の符を十数枚取り出し、床へ散りばめる。ハルトは裏方リフトを稼働し、フレイヤとイヴは古い綱を身体に巻きつけた。

 ノーランはトカリヤの手を取り囁く。「君の雷、灯りの演出に借りる。稲妻は観客を眩ませるが爆ぜない微電圧で」

 トカリヤは緊張で唇を噛むが、雷紋が淡く桃色に瞬いた。


 カーテンが開く。楽団の代わりに雷光が閃き、舞台上の埃が光粒となって舞い上がる。

 フレイヤが胸甲を羽根飾りで覆い、剣をリボンに変えて旋回。胸の揺れすら演出に昇華して観客の目を釘付けにする。

 イヴは狼尾で空中ブランコを操り、銀色の毛並みが星屑を引く。クロエの矢は矢尻に微細な鏡片を仕込み、射抜かれた先で七色の花火を咲かせた。

 雷鼓が鳴り、宰相の随伴兵たちは陶酔し拍手を贈る。背後でハルトが桟敷裏の防護結界に音もなく掬指の符を貼り付け、転送刻を計測。


 その間もトカリヤは舞台中央で雷光の指揮を取る。ローブの裾が照明熱で焼け、紐が音を立てて弾けた。胸元から淡い肌が覗き、ノーランの視線が吸い寄せられる。

 「み、見るな――って言う前に、稲妻が乱れる!」

 頬を朱に染めた彼女の狼狽に呼応し、雷光が一拍乱れる。だがノーランは心相リンクで即座に波形を補正し、観客には派手な演出にしか映らない。


 終曲。フレイヤの剣舞が大円を描くと共に、幕を下ろす雷が天井のシャンデリアを包む。水晶が砕け黄色い花火を散らし、観客の嬌声が劇場を揺らす。

 ――その隙に、ノーランは桟敷裏へ転がり込み、ハルトと合流。宰相の背後に控える魔装兵の腰から、王城中枢への転送符をもぎ取った。


 しかし作戦は成功と同時に終焉を告げる。レイオスがシャンデリアの欠片を払い落とし、冷えた瞳で舞台を見渡した。

 「雷光の律動……まさか、白冥の亡霊が王都で踊るとは」

 舞台背面の龍形照明が赤く点滅し、王城防衛結界が一斉に起動。劇場天井から警鐘が轟き、観客の仮面は歓喜から恐怖へ色を変える。


 イヴが綱を切り、仲間へ飛び込む。「時間切れ! 外郭が炎壁になる前に脱出よ!」

 トカリヤは胸元を抑え、稲妻を再収束させる。雷が蒼紫の刃へ変わり、舞台裏の壁を十字に切り裂いた。

 開いた裂け目の向こう――冷たい夜風の中で、王城外郭が紅炎を纏っていた。

 「先の手は宰相が読んでいる。でも、ここまで来たら踊り切るしかない」

 ノーランが微笑み、汗に濡れた額を撫でる。


 雷と燃える外壁の光が交錯し、華やかな舞踏会は一転して戦場の序曲となった。

 ――章の次なる幕は、炎壁を超える「禁衛の紅炎」。闇は深く、しかし夜明けはもうすぐそこだ。

華やかな雷光の饗宴は、一瞬で王都全域を揺さぶる警鐘と炎壁の序曲に変わった。舞台は燃えさかる外郭へと押し寄せ、ノーランたちは肌で知った「夜明けの前の嵐」と対峙する。奪い取った転送符を握り締め、彼らに残された道はただ一つ──紅炎の外壁を抜け、「禁衛の紅炎」へと足を踏み出すこと。

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