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炸裂する魔法と、謎の少女

 広場にたどり着いたノーランたちを待ち受けていたのは、想像をはるかに超える破壊の光景だった。黒煙が立ちこめ、まるで戦場のように荒れ果てた街並み。

 そして、その原因と目される少女・トカリヤ・スカイレイヴン。雷をまとい怯えながらも、すさまじい魔力を放つ彼女の姿には、王家が「管理すべき力」と言わしめるだけの特別な何かがあるようだ。

 一歩間違えれば街が壊滅しかねない危険の中、ノーランは強大な魔力を持つ彼女と兵士たちの衝突に飛び込み、せめて誰かのために動こうと試みた。無謀とも言える行動だが、それが新たな縁を生み、思わぬ協力関係をもたらすことに――。

 こうして運命を交差させた四人は、混乱の街を逃れ、闇深い路地裏へと姿を消す。自分たちが追われる立場になってしまった今、果たしてどうやってこの危機を乗り越えていくのか。物語は、さらなる試練と真実へ向け、慌ただしく動き出す。

 黒煙の上がる広場に到着すると、その一帯はまるで戦場のような惨状だった。石畳は砕け、建物の壁には大きな焦げ跡が残っている。あちこちで人々が逃げ惑い、負傷者を抱えた冒険者らしき男が必死に助けを求めていた。

 「ひどい……何があったんだ?」

 俺は呆然と立ち尽くした。こんな光景、前世でも災害や火事のニュースでしか見たことがない。だが、ここでは魔法らしきものが原因なのか、空気にむせ返るような熱と焦げ臭さが漂っている。


 「フレイヤ、私たちで負傷者を運ぶわ」

 クロエが状況を的確に判断し、そばにいた冒険者や市民と協力し始める。フレイヤも的確な指示を出しながら、まだ崩れそうな建物の様子を伺う。俺はというと、何とか手伝おうとするが、知識も力もないため、邪魔にならないように動くだけで精一杯だった。


 その時、一際眩い閃光が目に飛び込んできた。視線を向けると、広場の中心部に若い少女の姿があった。肩口まで流れるブルーブラックの長い髪には、ところどころ金色のラインが入っていて、まるで雷が走ったような光を放っている。

 「誰も、私に近づくな……!」

 彼女の声は震えていたが、その周囲には稲妻のような魔力が渦巻いていた。まばゆい光が焼けつくような熱を放ち、周囲に電撃の火花を散らしている。どうやら、彼女こそがこの騒動の原因らしい。


 「やめろ! ここ以上壊されたら大惨事になる!」

 周囲の兵士たちが叫ぶが、少女はまるで聞く耳を持たない。彼女は何かに必死に抗うように、両腕を抱きしめていた。

 「ちょっと、あれって……」

 クロエが視線を向ける先には、王宮の紋章をつけた兵士たちが数人、少女を取り囲むように布陣を敷いていた。兵士の一人が大声で叫ぶ。

 「トカリヤ・スカイレイヴン、おとなしく投降しろ! その力は王家が管理すべきものだ!」

 トカリヤ……彼女は何者なんだ? 兵士の言葉から推測するに、その稲妻のような魔力が特別なものらしい。


 「このままでは、街が破壊されるかもしれないわ」

 フレイヤが厳しい口調で言い、剣を抜く仕草を見せる。

 「でも、あの子を攻撃して止めるのか?」

 俺は考える。だが、あれほどの魔力を放つ少女を正面から止めるのは危険すぎる。ましてや俺にはそんな力はない。


 その時、兵士のリーダーらしき男が鋭い声を上げた。

 「囲め! あの女を捕らえろ! 抵抗するなら容赦するな!」

 兵士たちが一斉に走り出し、トカリヤを取り押さえようと殺気立った。彼女は悲鳴に似た声を上げながら、雷のような魔力を放つ。周囲に光が弾け、凄まじい衝撃波が広場を揺らした。


 「下がれ、ノーラン!」

 フレイヤがとっさに身体で庇ってくれたが、その風圧だけでも俺は尻餅をつきそうになった。周囲には細かい瓦礫が飛び散り、空気がビリビリと震えている。

 (こんなの、まともに食らったら……)


 トカリヤの瞳には、怯えと怒りとが同時に宿っているように見えた。必死に攻撃態勢を解こうとしているのか、それとも自分を守るために全力を振り絞っているのか……。どちらにしても、このままでは彼女も周囲も危険だ。


 「誰も……近づくなって言ってるだろ!」


 悲鳴じみた声が響く。だが、兵士たちは一切ひるまない。王家の命令があるのか、あるいは彼女の力を欲しているのか、分からないが、ここで下がる気配はない。

 (こんなの、やめさせないと街が崩壊するかもしれない……どうする?)


 思わず足がすくむが、それでも俺の中で何かが疼いて仕方ない。

 そんな衝動に突き動かされるように、俺はトカリヤと兵士たちの間に飛び込む形で走り出した。


 「やめろ、これ以上やっても誰も得しないだろ!」

 叫んだ瞬間、トカリヤの雷が俺のすぐ横を駆け抜け、地面を穿つ。衝撃で耳がキーンと鳴る。自殺行為かもしれないが、放っておけなかった。

 「近づくなって言っただろ……!」

 トカリヤは俺を睨みつけるが、その表情には迷いが浮かんでいるようにも見える。


 「大丈夫だ……俺は、君を捕まえに来たんじゃない」

 そう言うと、彼女は驚いたように目を見張った。周囲の兵士たちが鋭い声を上げ、剣を構えているが、俺は一歩も退かない。後ろではクロエやフレイヤが兵士たちを牽制してくれている。

 「どうして……守るの?」

 「それでも、誰かを傷つけたくないって気持ちがあるんだろ? 助けたいって思うんだ……君も、街も」


 俺の言葉にトカリヤは一瞬息を呑んだ。けれど、彼女の背後から兵士の一人が突進してくる。とっさに俺がその動きを視界に捉えた時、身体が勝手に動いた。

 「やめろ!」

 俺はトカリヤの肩を引き、間一髪でその兵士の攻撃をかわす。兵士は舌打ちし、体勢を立て直そうとするが、そこにフレイヤの剣が割り込んでくる。


 「この子は渡さない!」

 フレイヤの声は力強く、クロエも即座に弓を構えて援護に回る。混戦の最中、トカリヤはまだ怯えきった様子だが、多少は正気を保てているように見えた。

 「大丈夫……俺がいるから」

 そう呟いた瞬間、彼女の瞳がかすかに潤んだように感じる。だが、周囲の混乱は収まらない。むしろ、兵士たちは増援が来たらしく、こちらを囲む形になりつつあった。


 「フレイヤ、クロエ、逃げるぞ!」

 冷静に考えれば、ここでの正面衝突は分が悪すぎる。まだ理由は分からないが、トカリヤが兵士に狙われているのは事実だ。

 「わかった! トカリヤ、走れる?」

 クロエが彼女に呼びかけると、トカリヤは戸惑いながらもうなずく。雷のオーラはまだ彼女の周囲に揺らいでいるが、先ほどのような暴走状態ではないようだ。

 「いっせーの……!」


 フレイヤが合図と同時に地面を蹴り、兵士たちの隙間を駆け抜ける。俺とクロエ、トカリヤも追随する。兵士の怒声が響くが、街の路地裏に入り込めば、複雑な道のおかげで撒けるかもしれない。

 「くそっ、追いかけろ!」

 兵士たちの足音が追ってくる。俺たちは必死で走った。石畳が足裏を打ち、その衝撃が膝に響く。呼吸が乱れ、心臓がバクバクとうるさいほど高鳴る。


 「ごめん……私のせいで」

 走りながら、トカリヤが消え入りそうな声で言う。だが、俺は首を振る。

 「謝ることない。俺が勝手に飛び込んだんだ」

 この先どうなるのか、全く見当がつかない。しかし、俺はただ、この娘を放っておけなかった。それが正しい行動かはわからないけれど、今はそれが俺の答えだった。


 やがて、路地裏を幾度も曲がり、隠し通路のような狭い道を通ると、兵士たちの声は次第に遠ざかっていった。代わりに、夜のように暗い細い路地が俺たちを包み込む。光源はほとんどなく、微かな月明かりと街灯の残照が頼りだ。

 「はぁ……はぁ……逃げ切れた、かな?」

 フレイヤが息を整えながら壁に手をつく。クロエは周囲の気配を慎重に探っている。トカリヤは肩を上下させ、まだ足の震えが止まらないようだ。


 「あなたは……どうしてここまで?」

 トカリヤが改めて俺の顔を覗き込む。青緑色の瞳の俺を見つめ、その琥珀色の瞳がわずかに揺れている。

 「特に理由はないよ。君が苦しそうだったから」

 それは本音だった。前世でも、自分の弱さ故に誰かを助けたいと思っても助けられなかったことが多かった。だから、せめて今度こそは誰かの力になりたい、と。


 「ノーラン……か」

 小さく呟く彼女の声には、安堵の色がにじんでいた。まだ敵か味方かもわからない同士だが、少なくとも互いに嫌悪はしていない。

 「どうやら、一緒に動くしかないみたいね」

 フレイヤが背を伸ばし、すっと俺たちを見渡す。クロエもうなずいて、次の行動を考えているようだ。


 街の広場で起こった出来事は、明らかに不穏な陰謀の匂いがする。トカリヤが言う「王家の管理」という言葉も引っかかる。いずれにせよ、俺たちは追われる立場になってしまった。

 「この先は、どこか安全な場所に隠れないと……」

 俺の提案に三人が賛同する。夜が明けるまでの間、身を潜められる場所を探し、この状況を整理しなければ。こうして、俺とクロエ、フレイヤ、そして謎の少女トカリヤの奇妙な逃避行が始まるのだった。

 激しく揺らめく稲妻と、広がる瓦礫の山。その中心にいたトカリヤは、決して加害を望んでいるわけではないのに、周囲を傷つけかねない強大な力を抱えていました。そこへ半ば衝動的に割って入り、彼女を庇おうとしたノーラン。普通の少年が手を差し伸べたことで、兵士たちの追撃から逃れ、奇妙な共闘関係が生まれ始めます。

 まだ敵か味方かすら判然としないトカリヤ、さらにはクロエとフレイヤとの縁。予期せず巻き込まれた騒動の中で、彼らはどんな糸を手繰り、先へ進むのか。

 もしノーランがそのまま彼女を見捨てていれば、街はさらに大きな被害を受けていたかもしれません。そして、トカリヤ自身も取り返しのつかない道に踏み込んでいたかもしれない――。それを防いだのは、きっと“何もない”と思い込んでいたノーランの、ごくささやかな優しさでした。

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