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普通人転生-だけど前世知識で世界を変える-  作者: NOVENG MUSiQ
氷鏡に眠る双核機神

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29/60

氷都セル=グラシエル、雪封の回廊

 氷竜フロストヴァルターを討ち倒したすぐ後、昇降盤は一行を“白雪の都”セル=グラシエルへと導いた。千年を一瞬で凍結した噴水と市民像――動きを止めた時間の中で、唯一流れ続けるのは“かつての営み”が秘めた魔力。冷気に満ちた静寂と、凍傷寸前の身体を溶かす浴場遺構という極端な温度差が、今章の主旋律。

 今回は「静寂の遺構で見つかる温もり」を軸に

・氷像に眠る生命エネルギー

・崩れた浴場

・湯面に映る雷封儀式の残像=鍵石のヒント

 ……という三層構成で白冥中層の謎と甘酸っぱいドタバタを同時進行させた。

 昇降盤は衝撃もなく沈み、一行をまるで時の底へ沈めた。ランタンの灯芯が揺れもせず、五十メートルは下がったはずなのに体感では息をひとつ置く間の短さ。やがて盤が止まると、半透明の霧が脚を撫でた。


 “白雪の都”。氷壁に囲まれた円形広場の中心には凍り付いた噴水があり、その水飛沫は空中で時間を止めている。柱廊に沿って無数の人影が立つが、近寄ればそれは人ではなく氷像――千年前、雷封儀式の余波で瞬時に凍結したという市民の痕跡だった。


 ノーランは思わず像に触れた。石よりも硬質で、しかし温度は肌より温かく、内部で微細な魔力が循環しているらしい。「ここは生きたまま凍り、眠り続けている…?」思考がぞっとする空虚に行き着く前、イヴが尾で肩を叩いた。「魔物はいない。でも“生の気配”が溶けずに残ってる。長居は危険よ」


 風はなくとも寒さが骨に染みる。フレイヤは破れかけた上着を握り「温源を探す。武具も身体も限界」と唇を噛む。エリーは晶針を振り、北東の路地に地熱反応を検出。全員で向かうと、半壊した浴場遺構が姿を現した。


 屋根の裂け目から霙が落ち、床に溶けて湯気をあげる。湯船はかろうじて満たされているが更衣室は壁が崩れ、男女を仕切る遮蔽は肩丈の石塀だけ。

 凍傷を避けるには浸かるしかない。けれど白い吐息が石塀を越え、互いの人影を映す。クロエは恥ずかしそうに視線を伏せた。「弓弦を凍らせたままじゃ戦えないし……。い、いいわよね? 最小限見る方向守りましょう!」

 イヴは狼耳を震わせ、「全部濡れたら風邪引くのはあんた達よ」と尻尾で塀を叩く。


 湯に脚を沈めた瞬間、ノーランの足指から電流が走った。温かい。けれど石塀の影に映る女性陣の輪郭が湯気に揺れると、避けようとした視線がどうしても泳ぐ。

 フレイヤが肩まで浸かり「……溶ける……」と頬を紅くした。薄布が肌へ張り付き、ノーランは湯面へ視点を落とすしかない。エリーが岩棚から覗きこみ、「心拍計測中?」と意地悪に笑う。湯気越しに揺れるバストが雪灯りを撥ね返し、ノーランは耳まで赤くする。


 だが湯面に淡い四角い像が浮かんだ。氷の街の記憶――儀式の夜、雷を封ずる紋章を持つ神官が中央講堂から鍵石を運び出す光景。石の角度と位置を暗号のように示すモザイクが湯底に映し出され、ノーランは思わず立ち上がる。「鍵石はこの浴場の底にある!」

 慌てたせいで湯が跳ね、石塀を越えて女性側へと飛沫が降る。「ちょっ、こっち来ないで!」フレイヤの叫び、トカリヤの「ノーラン……目、逸らしてぇ……」――色とりどりの悲鳴と笑いが湯気に溶けた。


 騒動の最中、イヴは湯船の底を探り当て拳大の鍵石を引き上げる。「見つけた。けど責任取ってよね?」濡れた毛並みを撫でつけながら睨む視線は、どこか照れくさかった。


 入浴後、乾いた衣も無く外套を分け合うしかない。フレイヤはノーランのマントを肩に掛け「ありがと。でも背中は見るな」と頬を染める。トカリヤは雷杖を抱え、「わたし、鍵石を感じる……この座標は地下へ“落ちる”転移だ」と震える声で言った。


 湯の間で視たモザイクを辿り、浴場底の石畳にオーレリウス紋章を重ねると、氷面が音もなく割れて淡い光が吸い込む。「さあ、深核へ行きましょう」――誰より静かな声でそう呟いたのはエリーだった。

 ご入浴(?)回、お疲れさまでした! 氷都セル=グラシエルは異色のステージ。“凍ったまま生きている街”という静謐なホラーに、温泉という救済を差し込み、その湯面に「鍵石モザイク」というストーリー装置を投影――と、少し実験的な演出になりました。

 鍵石の正体と地下転移座標が判明したことで、次はいよいよ白冥深核――零核室に直結する“落下式ゲート”へ突入します。温冷差で不安定になったトカリヤの雷紋、フレイヤの損壊装備、そしてノーランの記憶に眠る“あの論文”がどう絡むのか。

 氷都の静寂が破られるまで、あとわずか。

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