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普通人転生-だけど前世知識で世界を変える-  作者: NOVENG MUSiQ
氷鏡に眠る双核機神

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25/60

北晶街道、白冥へ至る氷の導標

 王家機甲研究施設を死地と変えた炎と鉄粉の夜――そこから物語は一気に氷雪の果てへ駆け出す。今章でノーランたちを待ち受けるのは、灼熱の紅蓮爆核と対を成す《白冥零核》。火薬臭と血の温度がまだ肌に残るうちに、息も凍る白冥へ向かう“逃走と追撃”の旅が始まった。

 道案内はハルトが盗み出した〈オーレリウス蒐報録〉。余白に走り書きされた手書き地図に導かれ、北晶街道を踏み外せば即・凍死という極限行軍が続く。戦闘でボロボロになった鎧やローブ、雷過剰出力で紫色に染まるトカリヤの唇――

 そして鍵を握るのは《雷に濡れた盾》。トカリヤの力は本当に零核を鎮める鍵となるのか? 王家特務隊との時間差レースは一手読み違えれば終わりがない緊迫戦へと転じる。火を焚けば命取り、止まれば凍る。

 王家機甲研究施設を強行突破した夜、ノーランたちは燃え残る鉄骨の裂け目から漆黒の荒野へ飛び出した。身を焦がす火薬臭と真新しい血の匂いを背後に、彼らはただひたすら北へ――白冥と呼ばれる氷雪地帯へ向かった。そこには“神々の遺産”の一端を封じた極寒遺跡が眠るという。


 なぜ北晶街道を選んだのか。情報源は〈オーレリウス蒐報録〉――王家の秘蔵書庫からハルトが盗み取った一冊だ。最終章の余白に鉛筆で走り書きされた地図があり、紅蓮爆核と対になる《白冥零核》の在処を示していた。しかも「零核の守護装置は“雷に濡れた盾”を求む」と──雷を操るトカリヤが鍵になる、と読めた。


 研究施設での激闘は長かった。蒸気装甲兵、魔導ドローン、動力炉を占拠していた擲弾兵。フレイヤの鎧は傷つき破片がめり込み、クロエは矢筒を三度補充し、トカリヤは雷を撃ち続けた副作用で唇が紫色に変わった。休息らしい休息も取らずに北へ急いだのは、王家特務隊が同じ地図を追い、先に零核へ手を伸ばす恐れがあったからだ。


 街道沿いの空気は夜を追うごとに鋭く、身体中の汗が瞬く間に霜へ変わる。だが体温を保つ火を焚けば煙が敵を呼ぶ。そんな緊張の中で唯一の救いは、見上げれば満天の星が凍る空に近いほどくっきりと瞬き、旅という現実を幻想のように包み込んだことだ。


 「寒い……けど、まだ歩けるわ。ほら、見て。オリオンの三つ星が北に傾く頃、氷域への門が開くって前に読んだの」

 エリーが凍ったローブの裾を揺らし、息を白く弾ませる。学者らしい浪漫を語るその目は、研究施設で火花を浴びて焦げた袖越しに、なお輝いていた。横を歩くイヴは、狼耳を立てて防寒フードをかぶってもやはり寒さが尾の先に響くらしく、時折ぴくりと痙攣させている。


 夜半、巡礼用の廃堂に潜り込み、灯りを伏せてささやかな湯を沸かした。冷え切った手袋を脱いだ瞬間、トカリヤの指先は裂け、血がつっと湯に滲む。「平気。雷の火花より痛くないから」と笑うが、その肩越しに見える背中の稲妻紋は真紅に腫れていた。ノーランは迷わず自分の温包布をほどき、彼女の肩に巻きつける。布の隙間からのぞく華奢な鎖骨に、湯気が淡く纏わりつき思わず視線が泳いだ。


 「大丈夫よ、見ても怒らないわ」トカリヤは頬を紅潮させながら囁く。「それより、早く白冥に辿り着いて――私、本当に鍵になれるのか確かめたいの」

 その言葉に背中を押されるように、ノーランは指で地図をなぞり、《風牙峠》を越える最短コースを提案した。峠道は吹雪で年に数日しか開かぬが、そこを通れば王家特務隊を出し抜ける。仲間は満場一致で承諾した。


 深夜。フレイヤが見張り番を交代すると、外套の下で震えを隠し切れない。鎧の継ぎ目から吹き込んだ霜が肌に貼り付き、胸元の布地が結露で透ける。「……油断したら終わりね」と自嘲気味に笑い、ノーランへ小声で告げる。「明朝には氷河前縁だわ。そこで一気に装備を寒冷仕様に換装しないと、まともに戦えない」


 ――こうして、血と霜とわずかな熱を抱えたまま北晶街道を進む夜が明けた。東雲の空に雪雲が輪郭を描き、白冥への扉が遠くに霞み始める。そこへ王家特務隊の先遣魔導車の影が雪煙の中に浮かび上がった。

 「来たか……。よし、迎撃せず、峠で抜くぞ!」


 疾走する冷気のカーテンの向こうに、まだ見ぬ氷遺跡がかすかな青い光を放っていた。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます! 舞台は研究施設の瓦礫から雪原へ──

 今章では、フレイヤの鎧が剥がれても剣を握る執念、イヴの尻尾の震えが隠しきれない獣人ならではの生理反応、トカリヤの稲妻紋が凍傷のように腫れる副作用──身体が悲鳴を上げるほど、彼らの意志はむしろ鮮やかに浮かび上がります。

 血色を失う肌、結露で透ける布地、その一瞬の色香が極限状況の過酷さをかえって強調する――

 物語は次話から白冥の氷域《風牙峠》へ突入し、王家特務隊との“先行・待ち伏せ・逆転”がクライマックスへ向け加速します。強すぎる冷気が稲妻を凍結させるのか、それとも雷は氷をも貫くのか。


イラストは真ん中がトカリヤ、左側は手前からクロエ、ノーラン、フレイヤ、右側は手前からイヴ、エリー、ハルトです。

挿絵(By みてみん)

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