研究施設の影、ハルトの告白
紅蓮の遺跡での死闘を生き延びたノーラン一行は、火山麓の小村で束の間の夜を迎える。だが夜明け前、ハルトは自らの過去――王家の遺産兵器計画に加担していた事実を告白。獣人イヴの怒りと悲しみが交錯し、さらにエリーから持ち込まれた「王家の極秘研究施設」の情報が、次なる戦いの舞台を暗示する。仲間の信頼と償い、そして再び立ち上がるための決断が静かに交わされる“前哨の黎明”。果たして彼らは、王家の暗部にどう挑むのか――。
夜明け前、村の宿屋の一角。俺――ノーランは目を覚ましたあと、まだ薄暗い室内でぼんやりと天井を見つめていた。先日、紅蓮の遺跡で激しい戦闘を経て辛うじて生還したものの、仲間たちは疲弊しきっている。トカリヤはまだ静かに眠り、フレイヤやクロエも相当な疲れを抱えているだろう。エリーは夜中まで回復魔法や調律の呪文を使い、イヴとハルトは交代で村の外を警戒していた。
(こんな小さな村にいつまでもいても、王家の追っ手がやってくるかもしれないし……どうする?)
悩みながら寝床を出ると、廊下でハルトが待っていた。彼もあまり眠れていないらしく、やや青ざめた顔をしているが、目は冴えている。
「よ、ノーラン。目が覚めたか」
ハルトは静かに笑みを浮かべ、俺を屋外へ促す。村の門外まで行くと、そこにはイヴが立っていた。白銀の狼耳がうっすらと光を反射し、夜の冷気を感じさせる。
「何のつもり? こんな朝早くから」
イヴがあくびをかみ殺しながら言う。ハルトは少し黙り、意を決したように口を開いた。
「……俺のことを、そろそろ話しておこうと思ってね。お前たちに隠してることがある」
ハルトが言うには、かつて王家の研究者として深く関わり、“神々の遺産”を兵器化しようとする計画をサポートしていた時期があったらしい。すでに知っている人もいるが、ここまで詳細に語るのは初めてかもしれない。イヴは唸るように口をゆがめ、俺は「やっぱりそうだったのか」と軽い衝撃を受ける。
「つまり、あんたはその計画に嫌気がさして脱走したわけね?」
イヴが苦々しく言うと、ハルトは頷いた。
「うん。実際に目にしたんだ。獣人の一族や、他の種族がどれだけ犠牲になったか……俺の良心が耐えられなかった。だから逃げ出し、こうして王家を阻止する側についた」
その言葉に、イヴの瞳が鋭く光る。
「じゃあ、私の仲間が殺されたときも、あんたは……」
「かもしれない。俺が直接手を下したわけじゃないけど、研究用に獣人の血や能力が利用されていたのは事実だ。だからこそ今、俺は何とかして償いたいと思っている」
ハルトの瞳に後悔と決意が入り混じる。俺は見守ることしかできないが、少なくとも仲間として彼が一緒に戦ってくれるのは心強い。イヴはしばらく沈黙していたが、やがて小さく息を吐いた。
「……正直、許せない気持ちはあるわ。でも、あなたが本気で王家を止めるなら、協力しない理由はない。それにあたしは、誰か一人を恨んだところで仲間が戻るわけじゃないし」
彼女の言葉は怒りを孕んでいるが、それでも理性を失っていない。ハルトは僅かに笑って「ありがとう」と呟き、イヴは「別に」とそっぽを向く。
そこに、エリーがやってきた。ローブを羽織った姿で、朝の薄明かりに微妙に映えている。
「みんな、集まってたのね。私も話があるの。……実は、王家が“研究施設”を拡張しているって情報を、少し前に掴んでいたの。今回の紅蓮の遺跡の動きも、その施設に持ち帰るための兵器化計画だと思う」
研究施設――聞き捨てならない言葉に、俺やイヴ、ハルトは顔を引き締める。フレイヤやクロエ、トカリヤにも伝えたほうがいいだろうけど、今はまだみんなが休んでいる時間だ。
「施設って、いったいどこにあるんだ?」
俺が問うと、エリーは地図を広げ、少し離れた王国領の外れを指し示した。山あいに隠された場所で、表向きは“軍事研究所”として存在しているが、実態は遺産や魔物の改造を行う危険な施設だという。
「王家の暗部を担う場所……私が昔調べた古文書にも、それらしき記述が残ってた」
ハルトが苦い表情で加える。どうやら、そこには絶対に放置できない秘密が眠っているらしい。イヴは拳を握り、「獣人の能力を利用する実験もやってるかもしれない」と嫌そうな顔をする。
「……行くしかない、よな」
俺が振り返ると、エリーは小さく頷く。「でも、今はみんな疲弊してる。何日か休んで回復を待ってから行かないと、まともに戦えないわ」
イヴも「そうね。あんな火山戦をした直後に突撃なんて、自殺行為でしょ」と同調。
「じゃあ、トカリヤが回復するのを待って、満足に動けるようになったら研究施設を目指すか……」
俺はそう提案し、ハルトとエリーが頷く。イヴは特に反対しないが、焦燥感を隠せない顔をしている。王家の動きを一日でも早く止めたいのだろうが、無謀を避けるべきだ。
そんな流れで話がまとまる頃、朝日が昇り始め、村の人々も活動を始める。宿屋に戻れば、フレイヤとクロエが起き出していて「朝ご飯、もらえそうよ」と呼んでくれた。トカリヤはまだ眠りの中らしいが、体温や脈拍は安定してきたとのことだ。
「よかった……トカリヤ、ほんと無茶するからね」
フレイヤが苦笑し、クロエもうなずく。イヴは少し離れた椅子に腰を下ろし、王家への憎悪を押し殺すように唇を噛む。俺は、「焦る気持ちはわかるけど、今は準備が大事だ」と彼女に語りかけると、イヴは無言で首を縦に振った。
ハルトは淡々と携行品を確認し、エリーは「紅蓮の遺跡の話は、村人にしないほうがいいわね。混乱を招くかもしれないし」と提案。フレイヤも「そうね、あくまで普通の冒険者として振る舞っておきましょう」と賛成する。
数日かけて休息をとり、トカリヤの回復を待ち、俺たちは研究施設へ向かう予定を立てる。この先にどんな地獄が待ち構えているかはわからないが、少なくとも今は全員が志を同じくしているはずだ。王家を止める――その一点で意見は一致している。
しかし、新たな火種がどこからくすぶり始めるのか、誰にも予測できない。ハルトの告白で彼の過去が明らかになった今、仲間として信用するか否か、イヴの心にもまだ迷いがあるだろう。俺はただ、皆を信じて進むしかないのだ。
――そして、トカリヤが回復して村を出発するころには、研究施設の影が更に濃く迫っているとは、この時はまだ知る由もなかった。
ハルトの告白で露わになった王家の暴虐と、獣人への罪。イヴは葛藤を抱えつつも、共闘の道を選びました。エリーが示した研究施設は、遺産・魔物・異種族を兵器化する闇の拠点。疲弊した一行はトカリヤの回復を待ち、数日後にそこへ潜入する決意を固めます。
「王家を止める」というただ一点で一致した彼らですが、火種はなおも燻り続け、誰の心にも迷いが残るまま。傷を癒やした仲間たちが“研究施設”へ突入し、ハルトの贖罪、イヴの復讐、そしてノーランの信念が大きく試されることになるでしょう。




