8.結界の違和感
「それでは行って参ります」
クリスティーナは魔法陣を背に、ケイティに挨拶をした。
西領に行ってから1週間が経過していた。ケイティにもう一度巡回に行くように言われていたこともあり、クリスティーナは西領へと向かうところだった。勿論、ヴィクトルも同じだ。
「ええ。今度こそ良い報告を待っているわ」
微笑んでいるが、クリスティーナにはまだ前回の失敗を許していないように見えてならない。
ケイティに再度挨拶し、2人は魔法陣と向かい合った。
――フワアア。
瞬時に空間転移を終え、再び西領に足を踏み入れた。転移した場所は1度目と同じだ。だが――。
(あれ……?何か違う……?)
クリスティーナは何故か強烈な違和感を覚えた。
「魔力が濃くなった……かな?」
ヴィクトルも違いに気づいたようで、呟く。それを聞いてクリスティーナはハッとした。
(結界からまだ距離があるのに魔力を感じる……!)
前回は、結界の近くに寄ったところで、魔力が漂っている事に気がついた。だが、今回は離れた所にいても感じる程の魔力が漂っている。
「どういうこと……?」
「わからない。気になるけれど、とりあえず巡回を終わらせよう」
「ええ」
そうして2人は結界にできるだけ近づいた。
「やはり神聖力が感じられないわ。……って、え?」
驚きの声をクリスティーナは思わずあげる。
相変わらず結界から神聖力を感じ取ることざできない。
魔力が漂っている事は事実だ。だが、それは神聖力が感じられない理由にはならない。
神聖力と魔力は決して相容れない。魔力とは別に、微かでも神聖力を感じ取る事ができるはずだ。
「光の力で作られていないのか……」
結界とは、必ずしも光の力で作られるわけではない。風や火の力を使って作る事もできる。
「……あるいは」
――魔力を使っても結界は張れる。
「……魔力で結界を張ったと考える事もできるけれど。よく感じ取ってみて」
ヴィクトルにそう言われてクリスティーナは瞳を閉じ魔力を辿る。
「……ッ!?」
魔力は、結界からではなく、その奥――隣国から漂って来ているようだった。
「でも、結界に光の力を注いでいるのは確かなんだよね。どうして神聖力が感じられないんだろう」
言われて思い出す。
「……そうだわ。魔力のことも気になるけれど結界の巡回が本題だものね」
2人は結界に沿って歩いたが、やはり神聖力を感じる事はできなかった。
「とりあえずこのことを報告しようか。……でも、魔力は何とかしておきたいよね」
「そうね。――魔力は私に任せて」
ヴィクトルにそう言ってクリスティーナは手を胸元で組み合わせた。
(女神様、ルシア様。悪しき魔の力を祓う清らかなる御力をお貸しください)
クリスティーナを中心に清らかな神聖力が溢れ、漂っている魔力を瞬時に浄化した。
「凄いね!」
「……そんなことないわ。聖女として力が扱えないのだから……」
「君は十分に凄いよ。祈るだけでここまで強い神聖力を感じたのは初めてだよ」
「……ありがとう。それより戻りましょう」
率直な称賛が恥ずかしく、クリスティーナは話題を変えた。そんなクリスティーナを見て、ヴィクトルは見透かしたように笑った。
「そうだね。報告しないといけないし教会に戻ろう」
「ええ」
そうして無事2度目の巡回を終わらせたのだった。




