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35.動き出した人たち

「本当にありがたい。何と言ったらいいのか……」


 家に着くなりヴィクトルは、アントワーヌに頭を提げられ、苦笑していた。


 ソフィアを除いた8人の少女たちは、先ほど作った転移魔法を利用して先に家にアントワーヌの住む家に送り届けていた。今は、寝室で眠っている。


「――頭を上げてください。僕としても、王都の情報を教えていただけたので、ここはお互い様ってことで」


「だが……」


 渋るアントワーヌを宥めたのは、娘のソフィアだった。


「お父さん。ヴィクトルさんもこう言ってるんだし、良いんじゃない?みんな無事だったんだし」


「……そうだな」


 頭を上げたアントワーヌは手を差し出し、ヴィクトルはそれに応えてその手を握った。



 それから1時間ほど経った頃、8人全員が目を覚ました。身元を確認し、国への報告を終えると、8人はそれぞれの家へと帰された。


 8人から話を聞いたところ、皆魔物に拐かされる以前の記憶はあったものの、囚われていた間の記憶はなかった。そもそも、深い眠りについていたようだったという。


(妙だな……どうして僕は()()()()()()()()?)


 確かに、一度気を失っていたはずだ。そこで、起きることができないはずなのだ。


 ――いや、もしかしたら。


「女神様の力が目覚めようとしている……?」


 ヴィクトルは、ボソリと呟く。だが、その瞳は見開き、険しい顔をしていた。


「何か言ったか?」


「いえ、何でも。それじゃあ、僕はお暇させていただきますね」


「えっ?もう行ってしまうの?」


 泊まっていくと思っていたのか、戸惑った様子のソフィアに頷くと、ヴィクトルはお辞儀した。


「今まで、お世話になりました。……それじゃあ、僕はまだ王都に用があるので」


 ヴィクトルは丁寧に見送られながら、アントワーヌの小屋をあとにした。彼の頭の中は、西領で会ったエリザベートのことで占められていた。



「聖女様。北領がもうすぐ動き出しそうです」


 聞き慣れた遣いの者の声に、わたくしは顔を上げる。北領に見張りをつけたのは、結界の崩壊があった頃からだったか。


「そう、わかったわ。何度も北領と()()を往復させて悪いけれど、また北領に戻ってちょうだい」


「承知しました」


 わたくしは1人になったことを確かめ、腕で隠していた書類を取り出す。そこには、細かい字が羅列していた。紛れもなく、自分が書いたもので、各領に届ける大事な書類だ。


 ――隠した言葉に、クリスとエリザベートは気づいているだろうか。結界を確かに任せられる2人にだけ送っているものだが、気づかなければ意味がない。対策として、一応2人には手書きで書いているのだけれど。


「ジゼルの動きはまだないのね。あの子が結界に何かをしたのは明確だけれど……どうしましょう。この件は誰に任せるのが一番かしら」


 本音を言えば、クリスに任せたい。だが、今の彼女ではジゼルを止められない気がする。


 ……いや、クリスの身が心配なのだ。危険を冒すようなことはせず、東領から出ないようにしてほしい。


 ――だが。


 北領に向かわせでもしないと彼女を王都から遠ざけることが出来ない。


「……どうしようかしら」



 狭く薄暗い部屋でひとり悩むわたくしは知らなかった。


「――ふぅん、北領のジゼルさんですか。調べる必要がありそうですわね」


 ――扉の向こう側で、誰かが聞き耳を立てていたことに。

 

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