7.西領での光景
午後10時頃にもう一度更新します!
――フワアア。
そんな音がきこえた瞬間、クリスティーナとヴィクトルは転移を完了していた。
「きゃっ」
着地に失敗したクリスティーナは、よろめき倒れそうになってしまった。体の傾いたクリスティーナをヴィクトルは支え顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「少し驚いただけ。次からは平気だわ」
「そう。――なら早速巡回しよっか」
「ええ」
そうしてクリスティーナは人生初の西領で、結界の巡回をはじめた。
西領は、隣国との国境に面している、国王直轄の土地だ。人口こそさほど多くは無いが、王都アムールルシアにも通づる賑わいが満ちている。
「すごいわね……!」
「西領に来るのは初めてだったっけ」
「行く機会がないもの。ところでなぜ愛称で呼ぶの?」
「それは……。仲良くしたいから?――クリスももっと気安く接してくれていいんだよ」
「はぐらかされてる気がするわ……」
(本当に会ったことがないのかしら……)
以前にも初対面なのか尋ねた事があったが、答えを濁され、彼との関係を理解できていない。
「ん?どうかしたの」
気づかない内にヴィクトルを見つめていたらしい。
「ただ、本当に何者なのかと考えていただけよ。……早く行きましょ」
ヴィクトルを追い抜き歩き出したクリスティーナは知らなかった。
ヴィクトルがさみしげな笑みを浮かべた事に。
隣国との国境まで来たクリスティーナとヴィクトルは結界を前に首を傾げていた。
「これはどういうこと?……神聖力が感じられないだなんて」
クリスティーナは困惑した様な表情を浮かべ、疑問を呈していた。
それもそのはず。
国を覆う結界は、光の力によって生み出されているため、本来であれば滲み出る程の神聖力を感じるはずだ。
だが、 結界の近くにいるにも拘わらず辺りに神聖力は漂っていなかった。
――さらに。
「……これは……魔力……?」
結界の周囲では感じるはずのない、神聖力とは対極にある力、魔力を何故か感じ取ったのだ。
「おや、この力が何なのかわかるんだね。流石は元聖境司・ジョアシャンの弟子だ」
魔力を持たないクリスティーナだが、魔力の知識は人のそれの倍以上だ。それは、高名な魔術師であり元聖境司でもあった男、ジョアシャンのおかげだった。クリスティーナだけでなく兄も彼から魔術を教わった。
「……それ程ではないわ。だって……見ればわかるもの」
クリスティーナの言った通り、辺りには異様な光景が広がっていた。
結界から少し離れた所には茂っている草花が、結界に近づくほど少なくなり、やがて枯れていたのだ。そのため結界付近には荒れた地が続いていた。
「少し探ってみようか」
2人は漂っている魔力の原因を知るため結界の周囲を観察したり、近隣住民に聞き込みを行ったりした。
「やば……帰らなきゃ」
焦ったヴィクトルの声に、クリスティーナは夕方になっている事に気がついた。
2人は急いでヴィクトルの生み出した魔法陣に飛び込み、教会へと戻った。
――結界の巡回を忘れたまま。
「……それで結界の強度を確認し損ねたと」
教会に戻って直ぐケイティに素直に報告した2人だったが、聞くなりケイティは浮かべていた笑みを凍らせた。
「本当に申し訳ございません」
「まあ、別にいいわ。けれどもう一度巡回に行ってもらうことになるわ。いいわね?」
「勿論です」
こうして、クリスティーナとヴィクトルは再度西領へと赴く事になったのだった。




