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33.囮と言葉

 ――報告書に隠された言葉は、最新の3通があなたのところと異なるようだわ。


「嘘でしょう……?」


 嘘だと信じたい。実際、エリザベートが西領に来た日に見せた報告書までは内容は同じだった。

 

 だが異なる、というと、それはつまり、報告書に隠されていた言葉は、途中から2()()()()()()()()()()()


 そうすると、エリザベートが西領に来ている間の3通は、クリスティーナとは別の文章が書かれていることになる。エリザベートからの情報により、それらを当てはめると、


 ―― つかいはといてはなら   う印だつ  

  

 となった。普段、ケイティが書いている報告書は、横に19文字入るものだ。となると、既に14字埋まっているので、残すところあと5文字となる。


「大分埋まっているのに、まだ何を伝えたいのか知ることができない……!」


 クリスティーナは悔しさから顔をゆがませる。王都に行きたい。でも、状況を把握できていない今行ったところで、自分自身に何ができるのだろうか。


(無力な自分が恨めしい……ケイティ様も、エリザベート様もアイリスだって一人で頑張っているというのに……!)


 こんなときには、クリスティーナは聖女だというのに魔法を使うことのできない己を憎むことしかできなかった。



「それでは、行ってきます」


 ヴィクトルは明るく笑い、小屋を出た。一方で、見送るアントワーヌの表情は心配そうに曇っていた。


「……気をつけろよ」


「はい。必ずソフィアさんを連れて帰ってきます」


 今日は、魔物に攫われた少女たちを助けに行く作戦を決行する日だった。方法は、いたって単純。ヴィクトルが囮になるのだ。


(おおよそ、相手の正体はわかっているし。ま、油断しなければ大丈夫でしょ)


 能天気にそんなことを考えながら、ヴィクトルは教会に続く道を歩く。感覚を研ぎ澄ませば、魔物の気配がうっすらと感じられる。


(これは、想像以上にヤバそうだ。でも、女神様に任せるのは嫌だしな……)


 今も西領で仕事をしているはずの少女に思いを馳せ、嘆息する。そもそも、暫く連絡が取れていないためどうすることもできないのだが。


「そろそろ、お出ましかな」


 目を凝らすと見える、渦を巻く靄にヴィクトルは笑みを浮かべる。靄は、あっという間に広がり、ヴィクトルを覆い隠すほどにまでなった。少女ならば誰もが怯えるその漆黒の靄を見ても、ヴィクトルは平然とした。そして、何かを見定めるように目を細める。それと同じくして、靄がヴィクトルの体に襲いかかった。だが、ヴィクトルは尚も動こうとしなかった。


(地面に魔法陣が見えた。転移した先にきっと少女たちは居るのだろう)

  

 そうして、ヴィクトルは自ら魔物に攫われ、あたりから姿を消したのだった。



「ん……?」


 ヴィクトルは暗闇の中で瞳を開けた。そこで、気を失っていたことに気がついた。数度まばたきすると、次第に目が暗闇に慣れてきた。


(さて、早く脱出できるかな)


 立ち上がろうとしたところで、体に何か紐状のものが絡みついていることに気づく。だが、歯牙にもかけず一瞬で祓うと、何事もなかったかのように歩き出した。


 ヴィクトルは、暗闇の中でも明るく瞬く青い瞳で、躓くことなく深い暗闇へと進んでいく。

 だが、何かが足に触れ、ヴィクトルは立ち止まる。


「これは……」


 ――人の足だ。

 

 屈んでみると、そこには何人もの少女や少年が横たわっている。よく見ると、黒い蔦のようなものが体にまとわりついていた。先程体に絡みついていたのはどうやらこの蔦のようなものがものだったらしい。

 これは恐らく、生気を吸い取りながら、且つ逃がさないためのものなのだろう。ヴィクトルは魔法を使用し素早くそれを祓うと、事前に用意していた魔法陣を解き放った。

 暗闇を、眩い光が照らし出した。その強い光があたりに混じり合い消えた頃には、先程ヴィクトルが歩いて来た道の上だった。

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