31.自然消滅
「魔物は、他の都市や領へと行く前に、魔力が足りなくて、すぐに消滅していると私は思ったの」
草木をかき分けて進みながら、フローラは、前をまっすぐ見たまま続けた。
「他の都市での被害は、深刻なところもあれば、少しの被害しか起こらないところもある。つまり、どこの都市も、被害状況に共通点が全くないの。だから、魔物はきっとそれぞれ別の個体なのだと思うわ。そう考えた時に、魔物は自然消滅していると考えた方がしっくりくるのよ」
「……なるほど」
クリスティーナは頷きながら、これまでのことを整理していた。
(確かに、それならば辻褄が合うわ。魔物の発生条件がわからないにしろ、魔物がすぐ消えるのなら安心……いえ、だめね。被害は深刻なのだから)
そこまで考えたところで、はた、とクリスティーナは動きを止めた。
「クリス?」
「あの、フローラ様。魔力が足りないと魔物は生きていけないものなのですか?」
「あら、知らなかったの?魔力が彼らの生命力のようなものよ。人の生気もだけれど」
当たり前のように告げるフローラにクリスティーナは驚いた。そして、思った。
(そういえば私、まともに学園に通えてないものね……)
主に聖女が通う、聖ルシア学園に最後に通ったのはいつだっただろう……。
「そうなのですね……でも、そうしたら、魔物が発生することと魔力は関係しているかもしれませんね」
「確かに、一理あるわね。私もそこまで考えたことは――」
フローラが不自然に言葉を切って、息を呑む。何やら驚いているようなその表情に、クリスティーナは咄嗟にフローラの視線の先を追う。
「あれは、もしかして魔力の集まり……!?」
クリスティーナは、眼鏡の奥で瞳を細める。クリスティーナではぎりぎりだが、フローラにはしっかりとその眼に移っているのだろう。
――黒黒とした、靄の塊が。
「ええ。そうみたいね」
「浄化しますか?」
クリスティーナはフローラに問いかけたが、彼女は険しい表情のままだった。
「いえ、少し待って」
フローラのようにじっと靄を見ていると、微かに揺らめいているのが見えた。その揺らめきは次第に大きくなり、燃え上がる炎のように立ち上った。
「きゃっ!」
クリスティーナは一歩下がり、何とかその靄から逃れる。
「大丈夫?」
「は、はい。それより、靄がっ!」
クリスティーナは鋭い叫び声を上げた。
緊迫したその空間で、靄だけが鈍重な動きで揺らめいている。そうして膨れ上がった靄の塊は、形を取るように絶え間なく動き続け、ぼんやりとしていた形が、輪郭を結び始めた。
「これは、もしかして……!」
「そのようね」
これ以上、様子を探る必要はない。
2人は頷き、フローラは手をかざした。クリスティーナは、それに合わせるように手を組み、聖女の祈りを捧げた。
(女神様!お願いします!この魔物をどうか――)
瞬間、あたりに眩い光が満ちて、靄は跡形もなく消え去っていた。
――これで、魔力と魔物の関係がわかった。魔物は、そもそも魔力の塊から生まれているのだ。
「……だもすると、この魔力がどこから来たのか気になりませんか?」
「そうね。それさえわかれば対策ができるわけだし」
それからクリスティーナとフローラは他にも魔力の塊がないかを確認した後、もと来た道を引き返し、別行動をしていた2人と合流した。




