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29.東領での生活

「フローラ様、おはようございます」


 クリスティーナは自室から出たところでフローラに会い、声をかけた。


「あら、おはよう。あなた、朝が早いのね」


 フローラは、穏やかな笑みを浮かべてクリスティーナの挨拶に応えた。


 クリスティーナは今、東領でフローラが滞在している屋敷にお世話になっている。


 と言っても、この屋敷に着いたのは昨夜のことであるのだが。


「早く目が覚めてしまいまして……それに、早くフローラ様とお話したかったので」


「あら、嬉しいわ」


 無論、ただのお話ではない。そのことを知りながら、フローラは優雅に笑う。


「でも、その前に朝食の時間よ?」


「はい!」


 その日の朝食には、東領の名産品である穀類を主とした食事を味わった。クリスティーナには馴染のない食事だったが、どこか懐かしさを感じさせる、温かい食事であった。それは、同席しているフローラや聖境界司たちのお陰もあるかもしれないが。



「それでは、()()を始めましょうか」


 朝食が終わり、クリスティーナとフローラの二人きりで向かい合っていた。


「はい。えっと……何から話せばいいでしょうか?」


「改めて、説明してくれるかしら?手紙だけだとあまり状況を把握できないもの」


 東領を発つ前に送った手紙のことを言っているのだろう。

 クリスティーナは頷くと、東領へ来た経緯を話し始めた。


「――つまり、被害の多い都市でなら、魔物の発生についてがわかるかもしれない、ということかしら?」


「はい、そうです。それで、協力していただけませんか?」


「協力は惜しまないわ。……でも、聖女であるあなたが手ずから行動する必要があるというの?」


「人任せにはできませんので。このような事態に陥ったのも私たち聖女の責任。それなのに聖境司たちばかりに任せている場合ではありませんもの」


「――そうね。それならば私もクリスと共に行動するわ」


「えっ、フローラ様も、ですか!?」


 まさか、フローラ自らが行動を起こしてくれるとは思っていなかったクリスティーナは少し驚きながら聞き返してしまった。

 すると、フローラはクスリ、と小さく笑った。


「あら、あなたが言ったでしょう?」


 何のことかわからず目を瞬かせるクリスティーナに、フローラはどこか誇らしげに言った。


「聖女の責任、ですもの」


「!ありがとうございますっ。その、それで、被害都市の案内をしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ええ、そうね。住民たちには避難させているから聞き込みはできないけれど良いかしら?」


「はい、勿論です」


「それでは、中でも被害が大きかった、且つ安全が保証できる3つの都市を案内するわ」


「ありがとうございます!支度して参ります」


「ええ、私も準備してくるわ」


 クリスティーナは一度与えられている部屋に戻った。

 クリスティーナの居た西領の屋敷よりも歴史を持つこの屋敷は、ところどころに五大使や女神を描いたものと思われる姿絵が飾られている。クリスティーナの部屋にも、一枚飾られていた。

 昔は、今よりもきっと教会への信仰が深かったのだろう。


(もとから教会の所有する屋敷ではあったみたいだけれど)


 そんなことを思いながら、クリスティーナは出掛ける支度を進めた。


 部屋を出ようとして、一度クリスティーナは立ち止まり、後ろを振り返った。

 そこには、1人の五大使の姿絵が飾られていた。

 絵が書かれた年は最近なのだろうが、五大使を見たことがあるかのように鮮明に描かれていた。


 とはいえ、クリスティーナが五大使を見たことは一度たりともないのだが。


「行ってきます」


 クリスティーナは誰に言うわけでもなく呟いた。


 ――その言葉を聞いているかのように、姿絵の中の黒髪の青年は微笑んでいた。

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