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27.魔物による誘拐

「アイリス。それじゃあ、西領のことは頼んだわ」


 クリスティーナは、屋敷の前で、アイリスと暫しの別れを告げていた。

 あれから2日経ったが、王都からの報告はまだ届いていない。そのため、アイリスに任せることにした。また、クリスティーナはフローラに、東領へ訪問する旨の手紙を送っていた。返事は来ていないが、待っていられるほどの余裕は現状、無かった。


「はい。安心して任せてください!……クリス先輩こそ、気を付けてくださいね」


 一瞬、アイリスが不安げな表情を見せたように感じるたは、気のせいだろうか。


「ええ」


 クリスティーナはアイリスとの距離を詰めると、優しく抱きしめた。


「っクリス先輩!?」


「……本当は、とても不安だわ。アイリスに任せてばかりなのも、不甲斐ないと思っているわ」


 そこで言葉を切ると、クリスティーナは少し体を離し、アイリスと目を合わせた。


「でも、そんな私にも出来ることがあるのなら、絶対にやり遂げる。だから、心配しないで。私は必ずあなたのもとへ帰るから」


「……!はいっ」


 アイリスは、いつもの無邪気な笑顔を浮かべていた。それでも、何故かクリスティーナには今にも泣きそうな表情にも見えた。


「またね、アイリス」


「はい!クリス先輩!」



 その頃ヴィクトルは、王都の外れにある山奥の小屋に居た。

 ――そう、あの老人の住居だ。

 老人の名は、アントワーヌと言い、()()一人でこの小屋に住んでいる。


 アントワーヌに偶然拾われたヴィクトルは、彼の家でお世話になり、狩りや薪割りを手伝いながら過ごしている。


 そして、今は、といったようにアントワーヌには今年23歳になる養女、ソフィアがいた。

 いた、というのはつい先週、ソフィアが突如姿を消してしまったからだ。

 

 ――魔物によって。


 そして、アントワーヌは一人で何とか暮らしながら、愛する娘を探しているのだ。

 我ながらお人好しだと思いつつ、ヴィクトルはその手伝いも買って出た。


 それは、聖境司でありながらこんな事態を招いてしまったことへの罪悪感によるものかもしれないが。


「ヴィクトル!こっちへこい」


 アントワーヌは、とても口が悪かった。それでも付き添っていた娘のソフィアとは、どれほど心優しかったのだろうか。

 そんなことを思いながらも、ヴィクトルはアントワーヌから王都の情報を得ていた。


「今日の様子はどうでしたか?」

  

 ヴィクトルは、今日も朝早く教会へと出掛けたアントワーヌに、王都の様子を聞いた。

 アントワーヌは、娘が心配なのと、1日の日課である故、毎日教会へと足を運んでいた。

 ……普通ならば、ソフィアと一緒に。


 しかし、皮肉なことに、ソフィアが姿を消したのはアントワーヌと共に教会へと向かっていた時だったという。突然現れた黒い靄に、ソフィアの小さな体はあっという間に包まれてしまったらしい。そして、靄が消える頃には、ソフィアの姿はなかったという。

 黒い靄、というのはおそらく発生したばかりの魔物だろう。何かの形をとることのできない、まだ弱い魔物の特徴だ。


 そして、その黒い靄の目撃が王都で相次いできるということを、ヴィクトルはアントワーヌから聞いていた。また、ソフィアと同年代の少女が姿を消していることも。


(きっと、力をつけるために若い女を狙っているのだろうけど)


 少女には、魔物が喉から手が出るほど欲しい不思議な力があるという。

 だが、何故か青年も同様に姿を消している事例もあった。それも、見目の良いものばかりが。

 そのため、ヴィクトルはアントワーヌによって外出を禁止されている。

 何でも、王都一帯で人々が外出を厭い、避けるのはアントワーヌの影響なんだとか。

 

「……何も変わりはねぇよ」


「そうですか」


 淡々とした答えに、ヴィクトルもまた感情をほとんど込めずに言った。

 

 これがヴィクトルの最近の日常である。

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