6.ヴィクトルという名の聖境司
「結界の巡回、ですか……?」
翌日もいつもの様に結界の補修を終えたクリスティーナはケイティの言葉の意味がわからず、思わず繰り返した。
いつも通り祈りを捧げようとしたところで、年長の聖女、ケイティが皆を呼び止めたのだ。
「そうよ。……クリスは初めてだものね。皆は先に向かって頂戴。クリスには私から説明するわ」
「「はい」」
ケイティは皆が出ていくのを見てから再度口を開いた。
「私たちは結界の補修を行う役職だけれど、その結界がきちんと張られているか確認することも職務内容に含まれているの」
「そうなんですね」
「ええ。だからあなたには聖境司とともに西領に言ってもらいたいの」
「西領ですか……。ですが、到着までにまる二日はかかるのでは……?」
「普通ならね。……でも、空間転移魔法があるもの」
「……!なるほど……。ですが聖境司と一緒なのですか?」
「一応そういうしきたりになっているわ。……そういえば、あなた聖境司と会ったことがないのよね」
「お恥ずかしながら機会が無かったので……」
「そう。なら仲良くなるにはいい機会になると思うわ」
そう言ってケイティは意味深長に微笑んだ。
かくしてクリスティーナは聖境司とともに西領へ向かうこととなった。
◇
「はじめまして聖境司のヴィクトルと申します。――これからよろしくね、クリス」
クリスティーナに挨拶をし、微笑む目の前の青年。
彼はクリスティーナ直属の聖境司で今日初めて会う相手なのだが――。
「もしかしてあの時の……?」
「おや、覚えてくれてたの?嬉しいなあ」
風に揺れる青みがかった黒髪に、鮮やかな青い瞳。何より優しく耳朶に触れる涼しげな声。
彼は入学初日、クリスティーナとぶつかった相手であり、兄の部屋で偶々居合わせた青年だった。
「流石に2度も会っているのですから覚えてます」
「そっか。――ところで、何で敬語なの?」
「なぜと言われましても……初対面の方に敬語で話すのは当たり前では?……ッ!もしかして今までに会った事があるのですか?」
「どうだろうね〜。……とにかく、敬語じゃなくていいよ。僕も普通に話しかけるし」
「そうですか……そう。わかったわ。よろしく」
クリスティーナは、何か冷たくない〜?と後ろで騒ぐヴィクトルを無視し、教会の外へ向かった。
教会の外には複数の魔術師が準備をしていた。既に他の聖女は向かった後らしい。
「それでは行ってらっしゃい」
引き続き王都で巡回をするというケイティは笑顔を浮かべ手を振る。クリスティーナはそれに振り返すと、魔術師のもとへ行く。が、ヴィクトルはケイティの前で止まり、彼女にに何かを耳打ちされていた。疑問を口にするまでもなく行こうか、とヴィクトルに手を引かれ、クリスティーナは黙ってそれに従った。
――フワッ。
不思議な音とともに現れた魔法陣はクリスティーナの身長の倍程もあり、赤い光を放っていた。
「準備は大丈夫?」
ヴィクトルに囁かれ、コクリとクリスティーナは頷く。
(今まで眼鏡かけてない時にしか会ってないからわからなかったけれど……とても綺麗な顔立ちをしてるのね)
思わずヴィクトルの顔を凝視する。すっと通った鼻梁に薄い唇。青く美しい瞳を縁取る睫毛は長く、微かに揺れていた。
すると、クリスティーナの視線を疑問に感じたのかヴィクトルは首を傾げる。
(いけない。いけない。……にしても、所作がいちいち様になりすぎだわ)
こころなしか頬を紅く染めたクリスティーナはヴィクトルから視線を逸らし、前を向いた。
それから2人はどちらからともなく手を取り、魔法陣に足を踏み入れた。




