21.フローラの過去
「……わかったわ」
深い溜め息の後、吐き出された言葉には諦めが含まれていまれていた。
「これは……フローラがまだ14歳の頃の話よ」
そう言って、エリザベートはフローラの過去を明かし始めた。
フローラは、常に優秀な妹と比べられながら生きていた。
今でこそフローラは聖女としても貴族としても認められているが、それは彼女なりに血の滲むような努力を重ねてきたからであった。
妹はフローラを慕い敬愛しているが、フローラ自身はそうではなかった。
妹の存在は劣等感そのものであり、己の敵のようであった。だからこそ、妹より幸せになりたい、そんな気持ちが彼女には芽生えていた。
それを唯一の自身の生き方とし、次第に人間関係にも支障をきたすようになっていった。
そうして、フローラは自身の存在を脅かす者を毛嫌いするようになっていった。
優秀だと評価される人物には誰彼構わず妬み、接し方が雑になっていった。
――それは、相手が先輩の聖女でも同じこと。
フローラは事あるごとに衝突を繰り返し、聖女の手では負えなくなっていた。ただし、外聞を気にしたフローラの父親がそのことを口止めしたため、世間ではそういったフローラの一面が知られることはなかった。
「そんなことが……でも、そうしたらフローラ様はどなたに聖女の仕事を教わったのですか?」
「今の聖境司だと聞いているわ。何でも、彼女の幼馴染らしくてね」
「そう、なのですか。でも、アイリスと姉妹仲が悪いというのは本当に意外ですね」
クリスティーナは誰にでも明るく接するアイリスとフローラを思い出し、呟く。
「……今ではフローラ様とアイリスは比較されていないように思うのですが、どうしてここまでフローラ様は優秀な女性に、その……強く当たるのですか……?あまり想像できないのですが……」
「それが、わからないのよね。もしかしたら、彼女の読みした未来が何か関係しているのかもしれないけれど……」
「なるほど……確かにそう考えるとしっくりきますね……」
「それで?気は済んだかしら?私がフローラに感じているのは、憐れみと同情。そして少しの信頼だけよ」
「はい。疑ってしまい、すみませんでした」
「まあ、いいわ。――それでは、王都の話に戻りましょう」
エリザベートの言葉に、クリスティーナはゆっくり頷いた。
「――私は、やっぱり王都へ行きたいです。理由はわからないのですが……何だか、私が行かなければならない気がして……無能であることに変わりはないです。でも、どうしても、行きたいのです。王都は、私にとっても、国民にとっても大切な場所だから」
拙い言葉ではあったが、エリザベートは慎重に耳を傾けていた。やがて話し終えると、エリザベートは一言だけ口にした。
「……そう」
不安げなクリスティーナの表情を見て、エリザベートは諦めたように息を吐き出した。そして、視線を上げて、クリスティーナを観察するように目を細めた。
「エリザベート様?」
やはり、女神様としての宿命が魂に刻まれているのかしら、という呟きは、クリスティーナの耳に届かなかったようだ。
「何か、仰られました?」
「いいえ、何でもないわ」
そこでエリザベートは一度言葉を切ると、少し考えた素振りを見せたあと、顔を上げた。
「――あなたが王都へと行くこと、了承するわ」
「本当ですか!?」
見るからに喜びを顔に浮かべたクリスティーナに、エリザベートは苦笑しながら告げた。
「ええ。ただし、条件があるわ」
「……何でしょうか」
つい表情を暗くさせるクリスティーナに、エリザベートは瞳に鋭い光を宿したまま、口を開いた。
「――1週間後、ケイティからの報告書が届き、王都の安全が確認できてから。ただし、安全が確認されたら先延ばしになるわ。それでも、いい?」
エリザベートから決められたその条件を前にしても、クリスティーナは動じずはっきりと頷いた。
「わかりました」




