19.王国の御三家
王国には、御三家と呼ばれる、王国を代表する3つの家系がある。
その一つ、ロシュフォール家の長女として、フローラは生を受けた。ロシュフォール家といえば、歴史に残る宰相を輩出している、昔から政治に多大なる影響を与えてきた家系だ。
そして、ロシュフォール家は王国建国時から存在している、爵位を持つ家系の一つだ。その数少ない家の中にはエリザベートの生家、ウェルズリー家も含まれている。その3家には、それぞれ当時から継承されている特性があった。
例えば、ウェルズリー家の長子には王国の秘密を次の世代に伝え、決して真相を闇の中に葬らせない義務を。
また、建国時から王家を支えてきた伯爵家にはどんなときも王家を支え、時に敵を排除する役職を。
そして、ロシュフォール家。
――彼らには王国の危機を予知するための、予知能力が授けられた。
王国の未来を見通すその力は、表だって使われることこそ無かったが、王国を支えてきた力だった。
王と忠誠を誓う御三家のみが知っていたその力は、いつの間にか人々の記憶から消え去り、知り得るのは能力を持つ本人と、歴史を受け継ぐウェルズリー家の長子のみとなっていた。
「……それでは、エリザベート様は、このことをウェルズリー家の義務を果たす過程で知ったのですか?」
話が一区切りしたところで、クリスティーナはエリザベートに尋ねた。
「そうね。御三家のこと……特に成り立ちや特性は詳しく学んだわ」
目を伏せたエリザベートの表情には、うっすらと悩みが滲んでいた。
「そうなのですね……それで、フローラ様が優秀な女性に対して当たりが強いというのは……」
「それについては……憶測の話にはなってしまうけれど……」
クリスティーナはそれでもいいのか、と言いたげなエリザベートの瞳を見つめ返し、頷いた。
「お願いします」
「……フローラの家系に予知能力があることは話したわよね。――今ではその能力は衰えてしまって、国の危機を見ることはできないと言われているわ」
「……?それでも、予知能力はのこっているのですか?」
「結論を言えば、そうなるわ。とはいえ、能力が衰えただけではなく、未来を見ることが出来る回数も一度きりになってしまったようだけれど。……それで、本題だけれどフローラはきっと自分の未来を見たのよ」
「自分の……?」
クリスティーナは眉を顰めながら軽く首を傾げた。
「ええ。彼女の人生を狂わせる、そんな未来を。多分だけれど、あの子の大事なものを失う未来」
「大事なもの……」
「ええ。クリスティーナは、何だと思うかしら」
突然エリザベートに問われ、クリスティーナは記憶を手繰り寄せる。
そして、クリスティーナは、フローラに訳あって相談したときのことを思い出した。
「……、……そう言えば……嬉しそうに第二王子殿下のお話をされていたことがあります。フローラ様のあのような表情を見るのは初めてで印象に残っていますわ。――ですので、婚約者、でしょうか?」
クリスティーナが恐る恐る結論を出すと、エリザベートは満足げに微笑んだ。
「私もそう思うわ」
結論を出し、思わず気が緩んでしまったが、先程のエリザベートの言葉がクリスティーナの脳裏を過った。
「……でも、失うって……」
最悪な未来を思わず想像してしまい、クリスティーナは首を振る。
「……何を考えているか大体わかるけれど……別に生死に関わることではないと思うわ。仮にそうだとしたら、彼女はもっと婚約者の行動に警戒するはずよ」
「そう、ですよね……」
ほっと胸をなでおろしつつ、では何なのか疑問が沸き起こる。
そのクリスティーナの疑問を読んだかのように、先回りしてエリザベートが口を開いた。
「……婚約破棄、でしょうね」
僅かに射し込む月明かりと灯りが、エリザベートの横顔を妖しく浮かび上がらせた。
とうとう、フローラの秘密が暴かれようとしていた。




