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17.フローラからの便り

 戻ってこないエリザベートを、クリスティーナは心配しながら、新しく届いた報告書を開いていた。


 内容は、いつも通り魔物の被害、国境付近の様子について綴られていたが、クリスティーナには気になることがあった。


 それは、先週より、全国的に魔物の被害件数が明らかに増えていることだ。

 まるで、結界が破壊してからの時間の経過と魔物の発現が比例しているかのように。 


 さらに、近隣国から魔物が侵入したと考えるにはやや不自然な地域にも現れ、その原因不明な現象は聖境司たちを悩ませていた。


 ――しかし、不思議と西領だけではそういった傾向は見られなかった。


(どうして……?西領だけが何かに守られているみたい。そんなことはあり得ないけれど……)


 何かがクリスティーナの意識に引っかかったが、その違和感に気づく前にクリスティーナは意識を切り替えてしまった。


 クリスティーナは、すっかり慣れたように報告書の縦列にざっと目を走らせた。

 文章として読める一行を、クリスティーナは声に出した。


「かのじょがこわした……?」


 小さな呟きがやけに大きく響き、余計に部屋の静けさを感じさせた。


(……彼女とはきっと裏切り者のことで、こわした、というのは結界のことよね……)


 クリスティーナはモヤモヤとした気持ちで眉毛を寄せる。

 ここ最近の報告書では、あらかた予想のつく内容が隠されていた。


「どうして同じようなことを繰り返しているのかしら?もしかして……最後に今までの全ての文を並べたときに、自然な文を作るため……?」


 仮説ではあるが、それが正解のような気がした。


「……取り敢えず、フローラ様からのものも見てみなくちゃ。悪い報せでなければ良いのだけど……」


 クリスティーナはふと、窓に視線を移し、すっかり夕日が射していることに気づいた。


「……エリザベート様はまだ帰ってこないのかしら?」


 この時間に一人でいることはクリスティーナにとって珍しいため、何となく心許なさが募る。


(ヴィクトルも行ったばかりなのにこんなに寂しくなるなんて……)


 つい、心の奥底に眠っている本音が顔を出し、クリスティーナは邪念を振り払うように首を振った。


「って、いけない!しっかりしなくちゃ」 


 改めてもう一つの封筒に手を伸ばし、開封した。

 始め、フローラらしい気遣いに溢れた挨拶が続いていたためクリスティーナは終始和やかな気持ちになったが、次第にその表情は険しいものとなっていった。


「東領の中心部では特に魔物の被害が増大しているですって!?」


 どうしてこうも領によって魔物の被害に差が出るのかわからず、 焦燥感に駆られた。


 だが、焦るのも束の間、最後に書き添えられた一文に、クリスティーナは疑問を抱くことになった。



 ――そうそう、あなたのところにウェルズリー嬢が来ていると聞いたけれど、上手くやっているかしら。あなたのことだから、遠慮がちになっているのではないかしら?自分の意志はしっかり伝えないと。大変だと思うけど、頑張って。

 それじゃあ、また王都で会える日を願って。


          フローラ・ロシュフォール

 

 手紙の終わりは、そんなふうに締め括られていた。


「どうして、フローラ様が()()()()を知っているの?」


 思わず呆然としたように掠れた声が漏れた。


 フローラは、エリザベートが西領に来ているのを知らないはずだ。勿論、クリスティーナは誰にも言ってないし、エリザベートも秘密裏に会いに来たと言っていた。


(なら、どうして?)


 不安や焦り、そして疑問。クリスティーナが様々な感情に翻弄されていたとき――


「……クリスティーナ。もう一度、話をしましょう」


 エリザベートが帰ってきたのだった。

もしかしたら、午後10時の更新は1話だけになってしまうかもしれません(汗)

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