16.2通の報告書
「聖女様、中央と東領より連絡が届いております」
室内で呆けていたクリスティーナは、使用人のその声にハッとして、勢いよく立ち上がる。
「今、行くわ」
クリスティーナは、屋敷の外まで向かいながら、先程の言葉を反芻し、首を傾げる。
(中央からはわかるけれど……東領……フローラ様から……?)
暫く何のやり取りも無かった仲間からの連絡に、クリスティーナは疑問を抱かずにはいられない。
(何かあったのかしら……無事だといいけれど……)
そんなことを思いながら玄関前に辿り着き、クリスティーナは2通の書類を受け取った。
「……ありがとうございます。……あっ、こちらをお願いします」
事前に書いていた西領についての報告書を渡すことを忘れかけ、少し慌てながらクリスティーナは報告書を差し出した。
「はい」
(私ったら、しっかりしなくちゃ)
遣いの青年が遠ざかるのを見つめながら、クリスティーナは意識を切り替えた。
◇
「……でも、やっぱり私が王都にいかなければならない気がするわ……」
中央と東領からの報告書を開封もしないまま、クリスティーナは再び頭を抱えていた。
(何なのかしら……?この胸のざわめきは……)
胸が騒ぎ、血が疼くように、クリスティーナの中で、王都への執着が強まっていた。
――まるで、何か因縁でもあるかのように。
自分が、解決しなければいけない。 この状況を打破できるのは自分だけだ。
そんな想いが、心の底から湧き出し、クリスティーナを満たしていた。
(何かが、起ころうとしている気がする……それでも私は何もしなくて良いの?)
クリスティーナは、自分の胸に問いかける。
だが、考えるまでもなく、答えなんて、とっくに決まっていた。
「――もう一度、エリザベート様を説得しましょう」
顔を上げたクリスティーナの瞳には、強い意志が宿っていた。
◇
「これは……どうなっているんだ?」
ヴィクトルは、1日と半日をかけて辿り着いた王都にて独り言つ。
王都は、以前の賑わいとはかけ離れた寂寥感が漂っていた。街を歩く人々は一人として見られず、閑散とした印象が目に映る。
「はああ……これじゃ、聞き込みは無理そうだ。ケイティのところにでも行くか」
ヴィクトルは深く息を吐き出し、歩き始めた。馬は休憩させているため、久しぶりの徒歩の移動だ。
見慣れた王都の不気味な様子に、早足で道を進んでいると、老人が歩いているのを見つけた。何事もないように、すれ違おうとしたが……
「おい、そこの若いの。出歩いてると危ないぞ」
しゃがれた声で、その老人に声を掛けられた。腰が曲がり、木でできた太い杖をついている様子は、ジョアシャンよりも年嵩に見えるが、肌の皺は少なく、第一印象程老いてはいないのだろう。
「……あんた、どっから来たんだい?」
「あの、西領から来た者なのですが、王都で起きたことを教えてもらえませんか?」
言っている途中にも感じる、値踏みしているような視線に思わず苦笑していると、ジロリと睨めつけられ、ヴィクトルは無表情を取り繕う。
「……あんた、何者だい?」
「やだなぁ、しがない旅人ですよ」
無害そうな無邪気な笑みを浮かべると、老人は何処か観念したように息をつき、ボソリと言った。
「……まあ、いい。王都の話を聞きたいといったな」
「はい」
背を向けて歩き出す老人をヴィクトルは困惑しながら追いかけると、老人は一言呟いた。
「……付いてくるといい」




