11.魔法陣の異変
話の区切りが悪くなるため、午後10時には3話投稿します。
「――ただの、清らかな力に敏感なだけの聖女よ」
エリザベートは、何の感慨もなく言ってのける。
「……本当にそれだけ?」
「そんなに気になるというのなら、調べてみればいいわ」
探るようなヴィクトルの視線に、エリザベートはフッと笑うと、もと来た廊下を引き返していった。
(調べても無駄とでも言いたげだったが……知られてもいいと言っているようでもあった……)
「……本当に何者なんだ……?」
一人きりの廊下に、ヴィクトルの独り言が響いた。
◇
「遅かったわね」
クリスティーナは、部屋に入ってきたヴィクトルに、思わず呟いた。
「そうかな?まぁ、色々準備があったからね」
そう言って、ヴィクトルは大きな鞄を手で示した。古びた鞄は、彼がとても大事にしている物でもあった。
「……そんなに必要なの?」
「念には念を入れなきゃ。王都の情報がほとんどないんだし」
「……それもそうね」
などと話していると、西領の偵察に行っていたアイリスが帰ってきた。
「ただいまです!……ところで、これはどういう状況でしょうか?」
そこで、クリスティーナは経緯を全て話した。
「大体わかりました。それでは、これからセト様は王都に行くのですね」
「うん。でも、僕ならだいじょーぶ。クリスはエリザベートと今後についての話し合いでもしてて」
「えっ、エリザベート様と?」
そこで何故かエリザベートの名が出て、クリスティーナはきょとんと首を傾げる。
「うん」
笑顔で頷くヴィクトルは、エリザベートに視線を注ぐ。つられてクリスティーナも視線を移すと、エリザベートは面倒くさそうにしながらも、口を開いた。
「……東領のことは聖境司に任せてあるから、私は暫くの間西領に居させてもらうわ」
「!そうなのですね」
クリスティーナは、エリザベートの頼もしさに、ヴィクトルが少しの間西領を離れる不安が紛れるのを感じた。
「あれっ?わたくしには何も無いのですか?」
「アイリスなら何とかなるでしょ」
一人だけ何も触れられず、アイリスは少し焦ったように言ってみるが、ヴィクトルに流されてしまった。
「……ということで、3人とも、仲良くやってね」
にこやかに微笑むヴィクトルの言葉に、
「はいっ」
「別に、あなたに言われなくても……」
「仲良くする必要はないわ」
三者三様の言葉が重なったのだった。
◇
それから、何とか話をまとめ、今日中に西領を発つというヴィクトルに、
「せめて、見送りくらいはさせて」
クリスティーナはそう言った。ヴィクトルはもちろん、と頷き、4人で外に出たのだが……
「あれっ?」
「あれ……」
「あら?」
「えっ……」
4人は声を揃えて呆然とする。
それもそのはず。
「魔法陣が、無い……?」
誰かともなく呟かれたその言葉は、驚きと、疑問が表れていた。
各領では、非常事態であるため、いつでも転移するための魔法陣が準備されていた。しかし、いつもは赤い光を放っているそれが、今日に限って無かった。
「どうしてかしら?」
「先程まではありましたのに……」
「もしかして、状況がさらに悪くなってるんじゃ……」
難しい顔をして考え込むエリザベートに、クリスティーナもつられたように俯く。
「――尚更、僕が王都に行って確かめなくちゃね」
「え……」
覚悟の籠もった声に、クリスティーナは顔をあげる。
「西領は幸い王都に一番近い領だからね」
「まさか、馬車で行くの?」
「いや?馬で行けば2日とかからずに行けるからね」
「それでも、危険だわ……」
「大丈夫、大丈夫。それじゃ、行ってくるね」
3人からの気を付けて、に背中を押され、ヴィクトルは馬に乗って王都へと駆けていった。
今後の波乱を知らずに――




