10.折衷案
「――王都には僕が行くよ」
いつになく慎重な面持ちで告げたヴィクトルに、クリスティーナは不安になりながら口を開く。
「えっ……どうして……?」
「クリスたちに危険な目に合わせるわけにはいかないからね」
「……危険だというのに1人で行くの?」
心配そうに眉を下げるクリスティーナを安心させるように、ヴィクトルは笑みを浮かべた。
「ケイティは君たちの安全を気にしていたけど、僕は自分の身を守りきれるから」
「でも……」
「大丈夫、様子を見てすぐ帰るから。対処法がわかれば、この状況も何とかなるかもしれないし。ケイティの安全も確認してくるよ」
「……」
反論したいのに、反論の言葉が見つからず、クリスティーナは口を閉じる。
「それに、魔物の対処も、クリスより僕の方が手慣れているでしょ?」
「うっ……」
正論を言われて、クリスティーナは先程とは別の理由で口を噤んだ。
だが、今言うべきことがあると思い直し、顔を上げた。
「わかったわ。でも、危険なことは絶対にしないでね」
「りょーかい」
何でもないことのように頷くヴィクトルに、不安とともに、クリスティーナは確かな信頼をおぼえていた。
「よし、そうと決まれば、準備してくるね」
そう言うと、ヴィクトルは自室へと向かった。クリスティーナが息を吐いていると、エリザベートが席を立った。
「エリザベート様?」
首を傾げたクリスティーナに、エリザベートはフッと笑い、
「少し、外の空気を吸ってくるだけよ」
と答えて、部屋を出ていった。
「――ねえ」
ヴィクトルは、後ろから声を掛けられ咄嗟に振り返る。するとそこには、先程口を開こうとしなかったエリザベートの姿があった。
「……何か用かな?」
ヴィクトルは、エリザベートの真意を確かめるように、目を細めた。
「クリスティーナを思う気持ちはわかるけれど、あなたが行く必要はないのではないかしら」
エリザベートはヴィクトルの青く、考えていることの読めない瞳を見上げ、問いかけた。
「……聖女の君からしたらそう思うのかもしれないね」
嘲笑うようなヴィクトルの口調に、エリザベートは眉を顰めた。
「何が言いたいの?」
「――僕たち聖境司は聖女と違って替えがきくから」
先程までとは違い、壮絶なまでの覚悟を宿した瞳に、エリザベートは思わず息を呑んだ。
「どうしてそこまで、とでも言いたげだね」
ヴィクトルは、エリザベートの思考を読み、楽しそうに笑い声を上げる。
「でも、僕絶対に死なないから」
言葉と裏腹に、寂しげな表情のヴィクトルに、エリザベートは戸惑いながら言葉を紡ぐ。
「あなたが必死になるのは、クリスティーナが女神様だからなの?」
え、と目を見開いて固まるヴィクトルに、エリザベートは無表情のまま告げた。
「クリスティーナが女神様を宿しているのは見ていればわかるわ。あんなにも清らかな雰囲気の魂は他にないもの」
反応を示さないヴィクトルを気にせず、エリザベートは言葉を続ける。
「あなたが、クリスティーナを女神様として扱っているとして、どうしてそこまでできるの?あなたは一体――」
そこで、ヴィクトルはエリザベートの言葉を遮り、怪訝そうな表情を浮かべながら、問いかけた。
「エリザベート。想像が過ぎるようだけど――君こそ一体何者なの?」




