8.意外な訪問
アイリスが突如邸を飛び出した日から3日が経った。あれ以来何事もなかったかのように生活しているが、クリスティーナには未だに疑問が残っていた。
(本当に何があったのかしら)
お互いに忙しく、中々尋ねる事が出来なかった。そして、今日もアイリスは西領の偵察に出かけている。
そんな日々を繰り返していると、ある時、意外な人物の訪問があった。
「クリスティーナ?居るかしら?」
「!?」
夜を除き開放されている邸の部屋に、美しい黒髪を靡かせた女性が入ってきた。
「エリザベート様……!?」
今は東領で働いているはずの仲間の姿に、クリスティーナは目を見開いた。
「ど、どうして西領にいるのですか?」
「確認したいことがあったの。……別に、深い意味はないわ」
エリザベートらしい答えに、クリスティーナは思わず苦笑する。
「それで、何を確認しに来たのですか?」
「ケイティからの報告についてよ」
その言葉に、クリスティーナは自分と同じ報告書が届いていることを悟る。
「!」
「その反応を見るに、あなたも知ってるみたいね」
「あっ……」
思ったことが全て顔に出ていたこに気づき、クリスティーナは頬を覆う。
「まぁ、いいわ。それで、あなたに届いた報告書を見せてくれるかしら」
「あ、はい。今、取り出します」
机の中を開け、ゴソゴソと報告書を取り出しているクリスティーナに、今まで黙ってやり取りを見ていたヴィクトルが近づいた。
「クリス」
クリスティーナにだけ聞こえる声量で呼びかけたヴィクトルに、首を傾げながら、クリスティーナは小さく彼に答える。
「……何?」
「エリザベートが、クリスに探りを入れてる可能性もある。確認して」
「!……わかったわ」
その発想に辿り着かなかったことに反省しながら、クリスティーナはエリザベートを振り返る。
「エリザベート様。一応聞きたいのですけど、エリザベート様は、何を確認したいのですか?」
「……あら、今更警戒するというの?」
エリザベートは、クスリと笑った後、唇に笑みを浮かべたまま告げた。
「私が裏切り者だとでも思ったのかしら?」
エリザベートの試すような微笑みに、クリスティーナはハッと息を呑む。
(裏切り者の存在を知っているのなら、同じ内容の報告書が来ているのね)
「……いいえ、まさか。ただ確認しただけですわ」
「そう。では、さっさと話を進めましょ」
エリザベートはいつも通りの冷たい表情に戻り、淡々と言った。
「はい」
クリスティーナは取り出した報告書を机に置き、自らも席についた。
「……文章は同じみたいね」
「そうですね」
お互いの報告書を交換し、読み終えた2人は視線を上げる。
そこにいつも漂う険悪な雰囲気はなく、クリスティーナはほっとしていた。
(良かったわ。このまま、仲良くなれないかしら……)
「……それで、あなたの考えを聞きにきたの。聞かせてくれないかしら」
「そうだったのですね。でも、どうして私に聞きに来たのですか?エリザベート様の拠点はケイティ様のいる教会に一番近いですし――」
「ケイティに聞きに行くのは危険だわ。ケイティが隠してまで伝えたことを尋ねに行ってしまっては彼女に迷惑でしょう?」
「確かに。では、他の2人は……」
「2人とも隠し事がありそうだし、信用ならないわ。その点、あなたは考えていることがわかりやすいもの」
「……」
(顔に出てるってことじゃない……)
クリスティーナは、無意識のうちに頬を膨らませる。そんなクリスティーナを見て、エリザベートは意外そうにしながら笑う。
「あなた、そんな顔もするのね」
「……どういう意味ですか?」
「いいえ、なんでもないわ。話を続けましょう」
エリザベートはやや強引に話題を戻し、クリスティーナはもう一度報告書とエリザベートに向き合うのだった。




