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7.次期聖女の期待

 アイリスがクリスティーナ達のもとを訪れてから2日が経った。アイリスはクリスティーナから教えられたことを着実に覚えている。

 

「アイリス、こちらに来てちょうだい」


「はいっ」


 今も、クリスティーナは聖女としての仕事をまた一つ教えている。



 次期聖女が聖女のもとで仕事を覚えていくのは伝統である。だが、結界が壊れた状況でも尚その伝統を継承することは上層部で激しい議論を繰り返した結果だという。

 効率が下がるとしても次期聖女の育成を進める方が良いと思ったのか。 


 或いは――端から現聖女に期待をしていないのか。

 現聖女の代は、結界が破壊してしまったことから結界の維持を務められなかった、という見方もある。

 それに反して次期聖女は、身分の高い者や、強い神聖力を持つ者が多く存在し、歴史的に見ても逸材ばかりだ。

 つまり、次期聖女が現聖女を大きく上回れば、現聖女を()退()()()早く次期聖女が継がせることができるのだ。

 今まで10年ごとに聖女の引き継ぎは行われ、ずっとその決まりが破られることは無かった。

 しかし、ここで敢えて次期聖女に早く引き継いでもらうことで結界のことを含めて解決してくれると考えているのだろう。他にも、年々下がっている聖女たちの国民支持をあげる役割もあるのだろう。 

  

(僕としてはクリスを引退させたくないんだけど……いや、これは傲慢だな……)


 ヴィクトルは忙しく働いているクリスティーナを見つめ、悲しげにため息をつく。


「セト様?どうかしました?具合が悪そうですけど」


 気がつけばアイリスはしゃがみ込み、地面に座り込むヴィクトルに目線を合わせていた。


 気遣わしげに眉を下げるアイリスに、ヴィクトルは大丈夫と言ってごまかす。


「いや、何でもないよ。それより、話は終わったの?」


「はい。クリス先輩がわかりやすく教えてくれるので!」


「そっか。……そろそろ、僕の仕事の時間だから、行ってくるね」


「あっ、邪魔してしまいましたね。お気をつけて」


「ん。クリス〜!行ってくるね」


「ええ、行ってらっしゃい」


 忙しいのは、聖女だけではない。彼女たちを支える立場に在る聖境司(彼ら)もまた、壊れてしまった結界を直すために奔走している。


「クリス先輩、セト様たちは何をしているのですか?」


「ああ、アイリスには言ってなかったわね」


 ヴィクトル達聖境司は聖女達の代わりに結界の修復方法を模索している。

 かつて2冊の修境記がそうであったように、聖境司はそれを探しているのだ。


「でも……そんな簡単に見つかるものなのですか?」


「いえ……見つかるかはわからないわ。そもそも、無いと考えている方々も多いみたいだし」


「じゃあ、どうして……」


「私には何も言ってくれないけれど……ヴィクトルは何か心当たりがあるみたいなのよね……」


 そう何気なくクリスティーナが呟くと、アイリスは驚いたように目を見開き、険しい表情でクリスティーナに問い掛けた。


「……セト様は何か言ってましたか?」


「う〜ん……何だったかしら。あっ、そうだわ!」


 ――女神様には大きな隠し事がある気がする。


「そんなことを言ってた気がするわ。私には全く意味がわからないけれど……」


「そう、ですか」


 いになく険しい顔をしたアイリスに、クリスティーナは不安な気持ちが湧き上がる。


「アイリス?どうかしたの?」


「いえ……気になることができて……」


 そう言うとアイリスは顎に手を当て、深く考え込んでいる。かと思えば、


「クリス先輩、少し出掛けてきますっ」

 

 勢いよく席を立ち、バタバタと扉に向かって走り出した。


「アイリス!?」


 クリスティーナの呼びかけにアイリスは慌てた様子ですぐ戻ります、と答えると慌ただしく去っていった。

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