5.深刻な事態
隠されていた言葉を、取り敢えず2人は新しい紙に書き出した。
紙には、左から届いた順に、そして縦書きにして書き出した。
そうして、2人が続いて目を向けたのは、7通目の『なにかが逃げだした』という文だった。
「――これまでの文とかも含めて考えると結界が破壊されたから何かが逃げ出したってことになるけど……」
「逃げ出した、ってことは何かに閉じ込めてたわけよね」
「うん。……結界と関連してるのなら、結界によって閉じ込めていたと考えるのが妥当だけど」
「!もしそうだとしたら……」
クリスティーナはそこまで言いかけて言葉を呑んだ。
だが、ヴィクトルもその先は勿論理解できた。
結界レベルの強い力で出来た物に閉じ込めるとはその対象は魔物――それも大悪魔と言って差し支えないようなものだ。
そんなモノが逃げ出したとしたら……
「その可能性は限りなく高いよね……もしかしたら国全体に被害を及ぼすかもしれないし」
「――こちらでも準備をして置かないといけないわね……」
ことの深刻さに顔を顰めつつも、再び机に並べられた8通の書状に視線を落とした。
「――あら?そういえばこれだけ意味がわからないわ」
「ホントだ」
クリスティーナは『つごうのよいかい釈』を見つめ、首を傾げる。
「これだけとても曖昧というか……何を指しているのかしら」
「ん〜……どういうことなんだろ?」
何を指しているのか、そして、何故〝都合の良い〟なのか。
「……これは取り敢えず頭に入れておいた方がいいわよね」
「そうだね。後々分かることもあるかもしれないし」
「そうね……って、えっ!?」
クリスティーナは何気なく左隣に記した文を読み、目を見開いた。
「他の文に気を取られて気が付かなかった……これってつまり……どうしよう……このままじゃ……」
軽いパニックに陥ったクリスティーナに、ヴィクトルは驚き、彼女の視線を追う。
「クリス?どうした…………あぁ」
ヴィクトルは小刻みに震えるクリスティーナと文章を見て、納得した。
「『とめにいかなければ』ねぇ……」
ヴィクトルは小さく呟き、鋭く目を細める。
ヴィクトルの声にピクリと体を強張らせたクリスティーナは恐る恐る口を開く。
「止めるって……きっと逃げ出した何かのことよね……?」
クリスティーナは震える声で、弱々しく尋ねる。
「うん……そうだろうね」
「ケイティ様は一人でどうにかするつもりなの……?」
大悪魔レベルを相手にし一人で戦い抜く。それがどれほど無茶なことなのか誰もが理解できる。
「……状況的にそうなるけど、危険性が高いのは彼女自身がよく理解しているはず。どうしてこんな選択をしたんだろ」
ヴィクトルは今までのケイティの行動一つ一つを思い出していく。
(違うこれも違う。もっと昔。あれは……そうだ。女神様に誓いを立てたとき……)
――女神様に歯向かうものは私が何とかする。
かつて強い決意を宿した瞳を持つ彼女に僕は、僕も居るんだけど、と冗談交じりに言った。でも、それに対して……
――女神様と女神様の愛し子は私が守る。それが私の使命だから。
(……そっか。彼女も必死なんだ。女神様――いや、クリスに幸せになってもらうために)
「クリス。ケイティはきっと大丈夫だよ。クリスが一番それをよく知ってるでしょ?」
「え……?」
今にも泣き出しそうな瞳をしたクリスティーナに、ヴィクトルはこれ以上ないくらいに優しく語りかける。
(仮にクリスに嘘をつく結果になろうと……ケイティの本望だしね)
「だから、王都に行こうなんて思わないでね?」
「っ!」
やはり図星か、と思いつつヴィクトルは苦笑を浮かべる。
――そんなときだった。
2人のもとに一人の客が訪ねたのは。




