4.クリスティーナの祈り
午後10時頃にもう一度更新します!
クリスティーナが教会に着いた時、既に他の聖女達は集まっていた。
首都アムールルシアに位置するこの教会は初代聖女が国を覆う結界を作り出した場所だ。
また、教会の尖塔は、結界を球として見た時、球冠の中心にあたる部分を指している。
結界とは、ある一点に力を放ち、そこを中心として力を広げる事で張るものだ。
つまり、初代聖女が結界を張った場所から真上に向けて5人で力を放ち、結界を補修するのだ。
それは結界に被せるように力を注ぐ事になるが、案外難しく、クリスティーナもなかなか慣れることができなかった。
「皆様、お待たせいたしました」
クリスティーナは4人の聖女達に頭を下げた。
「皆そろいましたし、それでは結界の維持を始めましょう」
そう言ったのは聖女の中で一番年長の女性、ケイティだ。そして、彼女は幼い頃から聖女になると噂された程の実力の持ち主でもある。そのため聖女達を束ねる立場にあり、それに相応しい人格を持った女性だった。
「そうね。誰かさんのせいでいつもより遅れているのだからさっさとしないとね」
そう毒づいた女性はエリザベート・ウェルズリー。ウェルズリー侯爵家の箱入り娘で、高慢なところのある女性だ。
「……申し訳ございませんでした」
謝りつつもクリスティーナは聖女に〝人格〟は必要ではないのかと疑念を抱くが、勿論口にはしない。
「2人とも女神様とルシア様の御前ですので口を謹んでください」
一歩離れたところで聞いていた一人の聖女が歳の割に低く冷ややかな声で戒める。
「そうよ。わたくし達は女神様とルシア様に仕える者。礼儀正しい行動を心掛けてくださいませ」
ケイティの一言に聖女達は皆、口を噤み姿勢を正す。
「それでは皆様、始めますわよ」
教会の床に埋め込まれた石でつくられた魔法陣の上に5人それぞれ立つと、ケイティが声をかける。
聖女たちは結界に力を放つため天に向けて手をかざす。それに対してクリスティーナは胸元で両手を組み合わせ瞼を下ろす。
(――女神様、ルシア様。私、クリスティーナ・セランドラに清らかなる御力をお貸し下さい)
聖女の祈りに定型文は無い。心に思い浮かんだままを言うため、祈りの都度に文は変わることが多い。
クリスティーナが一心に祈りを捧げる間、他の聖女達は光の力を教会の天井――その先の結界に向けて放っている。
自然と皆は同じタイミングに行為を止め、静かな教会に身を委ねる。
「ふぅ……」
誰かがついた息を合図に、聖女達は体の力を抜く。
「今日も無事に終わりましたわね。それでは皆様しっかり休んでくださいね」
ケイティの労いの言葉を聞いた後、各々がそれぞれの営みに戻っていく。
家に帰る者や結界の強度を確認しに行く者、街の様子を伺いに行く者。
皆が出口へと向かう一方、クリスティーナは先程から一歩も動かず教会に留まっている。
クリスティーナは側で見守っていた聖境司を含める皆が教会から出て行ったことを確認し、教会の奥へと足を踏み入れた。
「女神様、ルシア様。本日もありがとうございました。お蔭様で私は今日も務めを全うする事ができました。本当にありがとうございます」
クリスティーナは教会の奥にある女神像の前に跪き感謝の言葉を述べると立ち上がり、丁寧に一礼した。
「失礼致します。明日も宜しくお願いします」
光の力を使うことができないクリスティーナは女神とルシアから与えられた力を使うことは無い。それでも〝祈り〟を捧げる事ができるのは、聖女として女神とルシアの恩恵を受けているからなのだろう。
そのため、クリスティーナは女神とルシアに感謝を告げることが日課となっていた。
教会から出たクリスティーナは賑やかな街並みを眺め、眩しそうに眼鏡の奥の瞳を細める。
だが、あることを思い出しクリスティーナは足を動かす。
(そうだ。今日はお兄様と研究する予定だったじゃない!早く帰りましょう)
クリスティーナは大好きな兄の待つ家に急いだ。




