3.隠されていた言葉
「裏切り者……!?そんなこと……」
無いと言い切れるだろうか。
クリスティーナはまだ1年間しか彼女たちと過ごしていない。そんな中、彼女たちの全てを知っているわけではないし、彼女が考えていることなどわかるはずもない。
そして――結界の崩壊。ジョアシャンの見立てだと、長期にわたって何らかの力を受けていたということだった。そのことに、聖女が誰一人として気付けないことなんてあり得るだろうか。或いは、裏切り者がいたら――。
「もし裏切り者がいるのなら……」
クリスティーナはそう呟き、顎に手を添えた。
(……とにかく、私とケイティ様は違う。私は裏切ってなどいないし、こうして裏切り者が居ると報告していることもあるからケイティ様もきっと違う)
「怪しいと思うのはエリザベート様とジゼル様。だけど……」
――ウェルズリー嬢は嫉妬深いもの。あなたの功績をきっと妬むに違いないわ。
フローラが言っていたことを思い出す。
(彼女は嫉妬に囚われているところはあるけれど……)
「エリザベート様は違うような……でも、そもそもフローラ様がもし裏切り者だとしたら……?」
彼女が自分を疑いの目から背けるために敢えてあの様なことを言っていたとしたら?
「フローラ様も怪しく思えてきたわ……」
――ならば、ジゼルはどうだろうか。
「1番怪しく無いように感じられるけれど……」
――彼女は……隠し事が多いから。本心を伺うことは誰にもできない。それだけに怖いの。
「でも、フローラ様の忠告は当てはまるし……そもそも、裏切り者がいない可能性もまだ残っている」
(それに、何故ケイティ様は私に送ったの?もし裏切り者がいるとしても、私が裏切り物だったかもしれないというのに。いえ、それより彼女は……)
「――ケイティはどうして裏切り者が居ると思ったんだろうね?」
それまで黙って見ていたヴィクトルが口を開いた。彼もやはり同じ事を思ったようだ。
「そうなのよね……何か手がかりはないのかしら……」
ケイティは裏切り者の存在に気づき、クリスティーナに伝えようとした。だが、それを信じさせる術はない。ならば彼女はどうやって信じてもらおうとしたのか。
「――あっ!もしかしたら……今までの報告書にも何か書いてあるかもしれないわ!」
「確かに、そうかもしれないね」
そして、クリスティーナは今までに届いた8通の報告書を取り出した。
まずは一通目。一番最初に届いたものだ。
――いうことをしんじて
「これは……隠されている言葉に対して言っているのかしら?」
「そうだろうね」
つまり、裏切り者が居るということを前提にしなければいけないということだ。
クリスティーナとヴィクトルは届いた順に次々と読んでいった。
――だれにも言わないで
――はなから結界はない
――はかいされたのかも
――とめにいかなければ
――つごうのよいかい釈
――なにかが逃げだした
――うら切り者がいるわ
それらはどれも断片的で、何を示しているのか、何を伝えているのか理解することはできない。
「裏切り者がいることとか、秘密にしてほしいことは伝わったけれど……どうしてこんな不確実な方法を伝えているのかしら?そもそも何の意味があるの……?」
「現時点ではまだ何とも言えない。でも、何だか嫌な予感がする……しかも、ケイティの言葉で運命が左右される気がする」
ヴィクトルの予知のような言葉に、クリスティーナは無意識のうちに唾を飲む。
「あら?まだ続きがある……」
――近々、次期聖女がそちらを訪れるわ。
「……また忙しくなりそうね」
クリスティーナは困ったように笑いながら、少し楽しげだった。




