2.ケイティからの報告書
「クリス、どうだった?」
ヴィクトルはクリスティーナの手の中にある報告書を一瞥し、問い掛ける。
「いつもと変わらないわ。各領で魔物の出没が増えてるって」
「そっか。……でも、増えてるってことは1週間前よりは確実に魔物の量が多くなってるってことだよね」
聖女たちは報告を1週間毎に行っている。多いように感じられるが、国の非常事態であるため仕方が無い。そして、恐ろしいことにも1週間毎でも何かしらの変化があるのだ。
「そうね……幸いというべきか西領は1番被害が少ないけれど」
「うん……そうだね。でも、このまま行けば僕たちじゃ対応しきれないくらい魔物が増えるかもしれない」
「……!そうよね……どうすればいいのかしら」
「今やってるのだって対症療法だからね。根本的な解決方法を考えなければならない」
「でも、結界を作ったところで魔物の数は変わらないし……」
「――近隣国に被害が及でしまう」
アムールデース。それは結界によって守られ、女神から愛を表す国名だ。だが、国内は女神に愛されていたとしても、近隣国はどうであろう。アムールデースに侵入することが叶わぬ魔物は何処へ行く?
「……実際、過去には魔物被害によって滅んだ小国があるくらいだしね」
「えっ!?そんなことがあったの?」
「うん。割と最近のことだよ。今ではマリネフィアと呼ばれる我が国の領だけどね」
「マリネフィアは国だったの……?」
アムールデース領でもあり、国の近くに広がっているマリネフィアは国民ならば馴染み深い地名だろう。
「うん……国があった頃には〝ネフィア〟という名前でね。現地の言葉マリ――〝新しい〟という言葉を付けて現在の地名になったらしい」
「詳しいのね」
「そうかな?まあ、もともとアムールデースの属国だったわけだし」
「そうなの!?……というか何年前の話?」
「ん〜……12年前かな?」
「12年前って……あなた7歳よね。よく覚えてるわね」
「えっ!!クリス……僕の年齢覚えてたの……?」
クリスティーナは以前ヴィクトルに年齢を尋ねたことがあった。
(流石に自分で聞いたことくらい覚えてるわよ……)
「そ、それは……別にいいじゃない。……ほら、仕事に戻るわよ」
「はーい!」
にこにこと笑みを浮かべているヴィクトルを無視して、クリスティーナは報告書に視線を戻した。
「それにしても、ケイティ様も大変よね……一人一人に手書きで書いているんだもの」
「そうなの?」
ヴィクトルが書状を覗くと、流麗な文字が綺麗に並んでいるのが見える。
「……ホントだ。複製魔法を使えばいいのにね」
魔法を使えば完璧な複製を作ることができる。そうすれば仕事も大分楽になると思うのだが……
「何か手で書くことに意味があるのかしら……?」
何気なくクリスティーナは疑問を口にする。
「……あっ!」
ヴィクトルは目を見開いて声を上げた。
「?どうかしたの?」
「ケイティが手書きで報告書を書いてる理由、わかったかも」
「理由……?」
「うん。ケイティは他の人には多分複製を送っていると思う。でも、クリスに伝えたいことがあるから、わざと手書きなんだと思う」
「どういうこと?」
意味がわからず首を傾げるクリスティーナに、ヴィクトルは書状を手に取って口を開く。
「クリスは普通に横から読んだでしょ?」
「え?……ええ」
「この行を縦に読んでみて」
ヴィクトルはそう言って右から見て5列目の文字を指す。
「縦にって……。っ!」
クリスティーナは文の意味を理解し、息を呑んだ。
書状に隠されていた文。それは……
――うら切り者がいるわ




