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12本の薔薇と誓い

1章完結から2週間が経ちました!

聖女の1人、フローラ視点のお話です。

「待たせてすまない。フローラ」


 王城の庭に設けられた席に腰掛けていた私――フローラは腰を上げ、声の主にカーテシーを取る。


 銀色に近い金色の髪と見惚れるほど美しい碧眼を持つ彼は私の元へと駆け寄って来てくれた。


「第二王子殿下につきましてはご機嫌麗しく……」


「もう、堅苦しい挨拶はいらないって言わなかったっけ?」


 その言葉に姿勢を戻し私は困惑気味に口を開く。


「ですが、エド様相手にそんな……」


 エド様――エドワード様はアムールデースの第二王子であり、私の婚約者だ。


 エド様とはこうして定期的に会う様な仲だが、こうして久しぶりに会うと、公爵令嬢としての習慣が抜けない。


「まあ、せっかく婚約者殿が完璧な挨拶をしてくれたんだし、お返しはしないとね」


「……?」


 言われた意味がわからず緑色の目を瞬かせた私にエド様は一歩近づくと手を伸ばす。

 骨ばった、それでいて男性にしては華奢な美しい手で私の淡い金色の髪を掬うと、毛先にそっと口づけた。


「……!」

 

 初めてのその行為にフローラは頰を一瞬にして薔薇色に染める。


「ふふふ。顔が赤いよ?」


「も、もう!止めてくださいっ」


 普段の彼女にしては珍しく、焦った様子を見せてエドワードから距離を取る。


「ごめんね。でも、とても可愛らしくて、つい」


「わかりましたから、それ以上からかわないでください」


「からかったつもりはないのだけれど」


「……」


 私は赤い頬を誤魔化すようにして自分の席に回り込む。

 座ろうとしたところでエド様が椅子を引く。


「ありがとうございます……」


「大切なお姫様だからね」


 息をするように自然とフローラを特別扱いしてくれるエドワードは身分だけでなく存在全てがフローラの王子様だ。


「……先日は薔薇を届けてくださりありがとうございます」


 恥じらいを隠すために、私はエド様に伝えようと先程から考えていたことを口にした。


 お互い忙しいこともあり、会えない日々が続き寂しく感じていた頃、エドワードの名前で12本の真っ赤な薔薇が届いた。

 

「気にすることじゃないよ。でも喜んでもらえるならまた花を贈ろうかな。いや、次はアクセサリーの方が良いかな?」


「そんなにしていただかなくても……。薔薇は今も綺麗に咲いていますわ」


「そっか。大切にしてくれてるんだね。――そうだ、赤い薔薇の花言葉って知ってる?」


「勿論、知ってますわ」


「ふ〜ん。言ってみてよ」


「それは、愛…………」

 

 自信満々に口を開けた直後、自分が何を言おうとしているのかに気づき、口を小さく開けたまま固まる。

 だがエドワードは意味深長に笑いながらフローラの答えを待つだけだ。


「………しています」


 やっとの思いで絞り出した声は細く、掠れていたが、満足げに微笑む彼には聞こえていたのだろう。

 

「ふふふ。僕も、愛してるよ。――じゃあ、12本の薔薇の花言葉は知ってるかな?」


「12本の、ですか?」


「うん。興味深いことに花には本数ごとにも花言葉があるんだよ」


「そうなのですね……知りませんでしたわ」


「それじゃあ、教えて上げる」


 エドワードはいたずらっぽく笑うと席を立ち、フローラの席まで歩み寄る。


「エド様……?」


 エドワードはきょとんとした様子のフローラ目の前で膝まづくと、彼女の澄み渡った緑の瞳に自身の目を合わせる。


「――僕の妻になってください」


「……!」


 それは何の変哲もない、プロポーズの言葉。

 それでも、フローラにとっては深い愛の籠もった、掛け替えのないものだ。


「……返事は?」


「はいっ」


 微笑んで頷くと、エド様は見たこともないくらい幸せそうに笑ってくれた。


「良かった。断られたらどうしようかと思ったよ」


「まあ、私がエド様のプロポーズを断るはずがないでしょう?こんなにもそ、その愛……してますし、何より婚約者ですもの」


「それもそうだね。今日はフローラの口から〝愛しています〟が2回も聞けて幸せだな」


「も、もう!からかわないでくださいっ……」


 それから私達は他愛もない会話を交わした。



 ねえ、エド様。私、今とても幸せです。


 だからこそこの幸せを絶対に手放さない。そして、誰にも奪わせない。

 たとえ大切な実の妹だとしても。


 ――残された時間はあと4年。

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