39.結界の異変
「理不尽だ……」
ルーと共に速歩きで図書館を出てしまうクリスティーナの後ろ姿を見て、ヴィクトルは呟く。
「褒めてもらいたいのになあ……」
抱きとめたというのに、無かったことにされ、ヴィクトルは拗ねていた。
何気なく独り言ち、溜め息をついたその時。
「っ……!」
ひと足早く外に出ていたクリスティーナが驚いた様子でいきなり立ち止まった。
「クリス!?何かあったの?」
ヴィクトルはクリスティーナに駆け寄る。
彼女は目を見開き、手が震えていた。
「そ、その……さっき、外が異様に暗かったと言ったじゃない?それで、今見たら……」
その続きは空を見上げたヴィクトルにはすぐわかった。
「ッ真っ白!?」
空は先程と変わらず曇ったような色をしていて、そして先程よりも暗くなっていた。
「そうなの。――だけど、もっと目を凝らしてみて!」
「え……?あっ……!これは……」
「全体にひびが入ってるの……」
空には無数のひびが蜘蛛の巣状に広がり、それが空全体を覆うレースのようだった。
「どういうことなの……?」
「クリス。――これは空じゃないよ」
「え……?空、じゃない?」
「うん。結界だよ」
「!まさか……そんな……でも、どうしてこんなことに……?」
自分たち聖女が維持しているはずの結界の痛ましい姿に、クリスティーナは呆然とした。
「……わからない。……でも、これから訪ねる人に訊いてみればいいんじゃない?」
「これから訪ねる人……?……!ああ、そうね。師匠なら何か知ってるかもしれないわ」
「うん。それじゃあ、急ごうか」
「ええ」
◇
「師匠。それで、ひびについて何かわかることはありませんか?」
日記を渡しにジョアシャン宅を訪ねた2人は、ジョアシャンに早速質問した。
日記を渡したところ、大いに喜んでもらえたのでクリスティーナは少し心に余裕を持つ事が出来た。
「ふぅむ……儂も外の様子を見たがのう……聖境司でもない儂の考え話すとは……」
「不確定でもいいんです。師匠が思ったことを教えて下さい」
「……そうじゃなあ、あくまでも儂の意見じゃが、それでも良いというのなら仕方が無いのう。……結界にひびが入ったのは多分、突発的ではないと思うのう」
「えっ……?」
「突発的ではないとは、どういうことでしょうか」
事の重さを受け止めきれてないクリスティーナの代わりにヴィクトルが問うと、ジョアシャンは目を細めた。
「……恐らくは、何かの力が前から結界に働いていて、耐えきれなくなった今、ひびが入った。そんなところじゃないのかのう……」
「そう、ですか……ありがとうございました。私は教会に行ってきます」
「うむ、それがいい。きっと、他の聖女も同じ事を考えていると思うしのう」
「はい。今日はありがとうございました。……失礼しますね」
「ああ、そうじゃ。クリス、日記を見つけてくれてありがとう」
師匠は側に置いてある、二人から受け取った日記を手に取り、笑みを浮かべた。
「いえ、そんな……師匠にしてもらったことと比べたら大したことではないです」
「ほっほっほ。そう言ってくれると嬉しいのう」
「ふふ。それでは、私はもう行きますね」
「ああ。いってらっしゃい」
「……!」
(懐かしいわ……昔はよく師匠にいってらっしゃいと言ってもらったものね……)
だから、クリスティーナは温かな懐かしさを感じながら、言い慣れた言葉を告げた。
「行ってきます!師匠」
次回、1章完結予定です!
お楽しみに!




