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38.ルーの手柄

 ふわりと風を起こし飛び立ったルーは、本棚と天井との僅かな空間にも拘わらず自由自在に飛び回っていた。

 聞けばルーは風の精霊なのだそうだ。


「見ていてとても楽しいわね」


「だよね。ルーも楽しそうだし」


 精霊を軽んじて扱っている節があるヴィクトルが言ったとは思えないその言葉にクリスティーナはつい彼の横顔を視線で追う。

 ルーを見詰める青い瞳には限りない慈愛が籠められており、口元は緩く弧を描いていた。

 その温かくも儚げな表情にクリスティーナは胸が痛くなり、同時に懐かしさを感じた。


(さっきも感じたことがあるわ……何なのかしら……?)


 考え込もうとして、少し離れたところから聞こえた高い声にクリスティーナは顔を上げる。


 ――ピィィ。


「見つけたみたいだ」


「もう?本当に凄いわね!」


「本人に言ってあげたら?きっと喜ぶよ」


「もちろん!ルーが居なかったら2人でずっと探し回るところだったもの」


 クリスティーナはルーが旋回している本棚の下へ駆け足で進む。後ろから、


「……クリスと2人きりだし、僕は別にそれでも良かったんだけど……」


 という言葉が聞こえたが、聞かなかった事にした。



「ルー!見つけてくれてありがとう!」


 ルーの下まで来たところで、天井に向かって声をかけると、嬉しそうに鳴き、クリスティーナの肩に舞い降りた。


「ルーのお陰で時間が短縮できたわ。ありがとう」


 頭をそっと撫でると、ルーは嬉しそうに頰をクリスティーナの顔に寄せる。


「ふふっ。ルー、申し訳ないけれど、どれから師匠――ジョアシャンの力がするかも教えてくれないかしら?」


 すると、ルーは瞳で任せて、と訴え、再びクリスティーナの肩から飛び立つ。


 軽やかに地面に降り立つと、小さな足で少し歩き、目的の本を見つけた。


 ――ピィィ。


 クリスティーナはルーの立ち止まった所まで駆け寄ろうとしたが、床の小さな段差に躓いてしまった。


「――っ!」


 体勢を崩し、顔から倒れ込みかけたその時。

 クリスティーナは鈍い痛みではなく、ふわりと優しく体を包みこまれた感覚を感じた。


「!?」


 気がつけば、クリスティーナの目の前にヴィクトルが立っていて、彼の胸に抱きついているような構図が出来てしまった。


「急に走ったら危ないよ?」


 至近距離から聞こえる涼やかな声に、クリスティーナは頰を染める。


「う……わかってるわよ。……というか、どれだけ足が速いのよ」


 ヴィクトルはゆっくりとクリスティーナの後ろを追って歩いていた筈だ。


「クリスのためならね」


「答えになってないわ。……それより、早く離れてよ」


「ええ……いいじゃん。あと少しだけ。……っルー!痛い、止めて」


 いつまでもクリスティーナから離れようとしないヴィクトルに、痺れを切らしたルーが嘴で攻撃する。

 

 その隙にクリスティーナはヴィクトルの腕の中から抜け出した。


「ルー、ありがとう」


 痛い、と呻くヴィクトルをさり気なく無視(スルー)し、改めてルーが見つけた本のある所に向かった。


「これね……」


 クリスティーナは本の縁に指を掛け、慎重に取り出す。


 その本は丁度5階にあった隙間と同じくらいの分厚さをしていた。そして、表紙はジョアシャンが言っていた通り鮮やかな青色だった。


「クリス、ジョアシャンの日記っぽい?」


「ええ」


 漸く痛みから逃れたヴィクトルはクリスの手の中の本を覗き込む。


「これ、背表紙青色じゃないからルーに頼んで良かったね」

 

「あら、本当ね!」


 クリスティーナは得意げなルーを撫で、労った。


「クリス、僕にはしてくれないの?」


「……え?何であなたに?」


「ひどいよ!僕だってクリスを抱きとめたのに!」  


「だ、抱き……!?」


 クリスティーナは先程の場面を思い出し、叫んだ。


「あ、あれは忘れて!」

 

もしかしたら明日午後10時頃にも1話追加で更新するかもしれないです。

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