37.呼び出されたもの
「鷹……?」
クリスティーナはヴィクトルの肩に留まる大きな鳥を見て、目を瞬かせる。
その鳥はヴィクトルの頭より、頭1つ分高い。つまり、身長が低めのクリスティーナからしたらその顔を見るには見上げる必要がある。
ギロリと言う表現のよく似合う鋭い眼光を宿した黒瞳と目が合い、クリスティーナは思わず後ずさる。
「う〜ん。特に種類は無いと思うけど……まぁ、鷹みたいなものだよ」
ヴィクトルは軽く言って笑っているが、大きな鳥は怒ったように嘴で彼の頬を突く。
「……そんな雑に言ってもいいの?怒っているみたいだけど」
「怒ってるのはいつもの事だよ。……精霊だから本当は良くないんだけど」
「ならもっと丁寧に扱ったら?……って、え!精霊!?」
「うん」
事も無げに言っているが、精霊を簡単に呼ぶ事が出来るという事は、精霊と契約関係にあるという事だ。
「精霊と契約しているの……!?」
「う〜ん、契約って言うより使役してる感じ?」
「使役!?」
「まあ、命令とかしても露骨に嫌がるけどね……」
ヴィクトルはやれやれと言った風に肩を竦めるが、その相手は精霊だ。
(怒らないの?)
「〜〜痛っ」
肩を動かされ足元がぐらついた事で案の定精霊は怒る。
「ちょっ……悪かったから、許して!クリス、助けて!」
その後も暫く精霊による攻撃が続き、クリスティーナは何だか微笑ましい気持ちになりながら見ていた。
「――そういえば、名前はないの?」
「あるよ。ルーエア=トシュカ=ネアス。それがこれの名前」
これ呼ばわりされた事で精霊――ルーエア=トシュカ=ネアスは憤る。
「ルーエア=トシュカ=ネアス……?長いわね」
「よね。だからルーって呼んでる」
「……精霊をそんなふうに呼んで怒られないの?」
「怒られるよ?」
当然、といった風に頷くヴィクトルに、クリスティーナは溜め息を隠せない。
「でも、クリスなら許してもらえるんじゃない?」
「それってどういう……きゃあっ」
意味を尋ねようとしたところでヴィクトルの肩からルーエアが飛び立ち、クリスティーナの肩に留まる。
「ど、どうすればいいの……?」
「頭撫でてみるとか?」
「……いやよ」
だが、クリスティーナの想いに反しルーエアは頭をクリスティーナの髪に擦りつける。
「ふふっ、くすぐったいわ」
「ほらね。やっぱりクリスティーナ相手じゃルーは怒らないんだよ」
「でも、どうして?」
「心優しい聖女だからじゃない?」
「……いつもは、それでも聖女?って言うくせに」
「えーそんな事言ったっけ?」
目を泳がせるヴィクトルにクリスティーナは半眼になる。
「もう、都合が良すぎるわ……」
クリスティーナはヴィクトルから視線をすぐ横にいる精霊に戻すと、優しげに目を細める。
「……かわいいわね。ルーって呼んでもいいかしら?」
ルーエアはヴィクトルに激しく攻撃を仕掛けていたものとは思えない程大人しく、クリスティーナに心を許していた。
だからこそクリスティーナも緊張を緩め、問い掛ける事が出来た。
クリスティーナの問いに対しルーエアは勿論と言うかのように頭をコクコクと縦に振る。
「ふふっ。ルー、これからよろしくね」
「……クリス……戯れるために呼んだわけじゃないからね?」
微笑み合う一人と一匹にヴィクトルは嫉妬の籠もった低い声で話しかける。
「ええ、わかっているわ。――それで、何をするの?」
「ルーに上から見てもらおう。ジョアシャンとは会った事もあるから、彼の力を感じて見つけてくれると思う」
「!そんなことができるの!?」
「うん。凄いよね。……それでさ、クリスからルーに頼んでくれない?僕が言ったら暴れるからさぁ」
「まあ、いいわよ。――ルー、上から見て何処が中心か教えてくれないかしら?」
上目遣いのクリスティーナに、やはりルーは頷くのだった。




