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36.日記の在処

「……それじゃあ探そっか」


「……ええ、そうね」


 あの後ヴィクトルが黙り込んでしまったので、気まずい空気が流れていた。

 とは言っても2階分下りるだけだったので大した時間は無かったのだが。


(……何を話せば良いのかしら)

 

 クリスティーナの脳裏には先程のヴィクトルの言葉が残り、忘れられなかった。雰囲気が変じゃないか、ただそれだけを問うていただけなのに、

「忘れて」と言った意味がわからない。


(どういうことなの……?)


 知りたくて仕方が無いが、本人から忘れて欲しいと言われているので話してくれないだろう。

 だが、あからさまに隠し事をされると流石に傷ついてしまう。


(私は隠しごとなんてしないのに)


「?クリス?」

 

 唇を尖らせ拗ねたような表情をしていた事に気づかれてしまった。


「っな、何でもないわ。早く探しましょ」


「?うん。けど、5階程ではないにしても、これだけ数があるとね……何処から探す?」  


「そうね……」


 クリスティーナは赤らんだ顔を誤魔化すように無理やり真面目な顔にして考える。


「――一般市民が入らないとはいえ前の方の本棚にあればすぐに見つかると思うの。けど、虐めのためにそんな奥まで入るとは思えないわ」


「じゃあ、中間地点あたりかな?」

 

「そうね。それから、隠した人の性格とかがわかれば良いのだけれど……」


「う〜ん。まあ、もし隠した人が日記を雑に扱ってたらテキトーに隠すよね」


「ええ……そうでなければ分かり易いのだけれど……」


「そうなの?」

 

「分かりづらいかもしれないけど、本棚10台毎に柱が立っていて、分類ごとに柱の色が違うのよ」


 近くにある柱を手で示すと、ヴィクトルは頷く。


「ああ、あの柱ってそういう意味があったんだね」


「そうよ」


「――日記の在処を覚えていないといけない理由があればあの柱を目印にして隠した可能性があるのか」


「そういうこと。ただ、日記の在処を覚えていないといけない理由、というものが 思いつかないけれど……」


「確かに……嫌がらせなんだし、普通は忘れてもいいよね」


「そうなの……」


「ま、分かり易い場所に隠したって事にして探してみよう」


「そうね。それじゃあ手分けして探す?」


「ん〜……一応2人で探そ」

 

「?どうして?」


「いや……何となく?」


(また何か隠してそうだわ……)


 ヴィクトルが疑問符をつけて話す時、それは大抵の場合誤魔化しから来ているものだとクリスティーナは理解している。

 

「……わかったわ」


 しかし、中々それを問い質すことは出来ない。


「中間地点ってどれくらいなんだろう?」


 本棚によってつくられた道を歩きながらヴィクトルが呟く。


「確かに分かりづらいわよね……どれくらい歩いているのかもわからないし……上から見ることが出来たら良いのに……」


 何気なくそう愚痴た時。


「あっ!クリス、それだよ!」


 ヴィクトルは目を輝かせクリスティーナの肩に手を乗せる。


「……なに?」


 つい冷たい言葉が出てしまうが、照れ隠しのようなものである。


「ありがとう!いいコト思いついた!」


「……それって、私のお陰なの?」


「うん!もちろん!」


 何が勿論なのかは理解不能だが、ヴィクトルの次の言葉を待つ。


「見ててね!」


「?」


 ヴィクトルは自分の指を咥え、高い音を鳴らす。いわゆる、指笛だ。


(何のために……?)


「ふふ、きっと驚くよ」


 ヴィクトルはそう言っていたずらっぽく笑ってみせる。


 ――バサッ。


 少しと待つ事なく、後方から鳥の羽ばたきのような音が聞こえてくる。


 そして現れたのは――。

午後10時頃にまた更新します。

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