表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/84

34.異変の始まり

「出られた……のかしら……」


 クリスティーナは図書館の入り口付近の庭を見渡し呟く。そして、難しい顔をして訝しげに首を傾げた。


 図書館に着いた時、時刻は10時で制限時間を約2時間とすると今は12時頃の筈だ。また、図書館へ向かう最中晴れていたので、今頃は太陽が照りつけていてもおかしくない。

 しかし、辺りは曇っているにしても暗い、そんな異質な暗然とした空気が満ちていた。


「ねぇ……どうしたのかしら……?」


 クリスティーナは隣で座ったままのヴィクトルに声を掛けた。彼は脱出した時から微動だにせずただ俯き下を見ていた。


「?どうかしたの」


 クリスティーナはヴィクトルの顎に手を伸ばし、顔を上げさせ、息を呑んだ。


「っ!?」


 瞼は開いていたが、いつも明るい光を湛えている青い瞳は虚ろで、何も映していなかった。

 その様子が、いつものヴィクトルと結びつかず、先程使い魔と向き合っていた彼を想起させた。

 その事が影響したのだろうか。唐突にクリスティーナの脳裏にとある記憶が浮かび上がる。



『……申し訳ありません。私はここを去ろうと思います。ここに居る理由はなくなってしまいましたので……』

 

 若い男が光の中に佇み、()に向かって声を掛けていた。


 逆光のせいで顔を鮮明に捉える事ができないが、切なげな声音と強烈な懐かしさに胸が痛んだ。


『そんな事ないわ。貴方は私にとってとても大事な人だもの……』


 自分のようで自分ではない。白昼夢みたいだ、と他人事のように考えながらクリスティーナは目の前の光景を見ていた。


『女神様……。……今までありがとうございました』


 男は女神と呼んだ人物に背を向けると足を踏み出す。


『待って……!行かないで……』


『――さよなら』


 最後に一瞬立ち止まった相手の手を掴もうと伸ばした手は、振り払われるまでもなく届かなかった。

 


「――何で!?また貴方は()()()()()()()()()?」


 クリスティーナの口から自然とそんな言葉が零れた。


(何……!?私はこんな事知らない……。今のは何だったの……?)


 気づけば温かい雫が頬を伝っていた。それを風が撫で、冷たく乾かしていく。 


 すると、ヴィクトルの瞳に微かだが光が戻った。


「……ん……クリス?泣いてるの?」


「!何でもないわ……それより、目が覚めたのね……!」


「ん?目が覚めたって、どういう事?」


「……え?」


 どういう事。記憶がないの?もしかして……。

 様々な想いが交錯してクリスティーナは困惑の笑みを浮かべる。


「何を言ってるの。図書館から出て、あなた気を失っていたじゃない」


「?クリス、大丈夫?……やっぱり5階に行くのは止めておく?」


(何を言っているの……?)


 呆然としたクリスティーナの前にヴィクトルは屈み込み、顔色を窺う。


「……い、いえ。なんでもないわ。忘れてちょうだい。そうね、入りましょう」


「?」


 ヴィクトルは不思議そうにしていたが、クリスティーナは気づかないふりをして、図書館に向かって歩き出す。


(状況は全く分からないけれど、取り敢えず様子を見てみるしかないわ。嘘をついているわけでもないでしょうし……)


「クリス、ホントに大丈夫なの?」


「何でもないわよ。早く図書館に入りましょう」



 ――クリスティーナは、辺りの異質な環境から目を背けている事に気が付かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ