27.師匠の頼み
ルシア学園の図書館は、関係者以外の3階以上への立ち入りを禁止している。だが、聖女や聖境司の付き添いとして入る場合は単独行動をしない、という条件付きではあるが、立ち入る事が出来る。
「――ほお。それは良い案じゃのう」
「それなら……」
「じゃが、今や何の関係も無い儂が行くのは女神様の為の場所を濫りに汚してはならぬ」
「そんなことないです!私の師匠ではないですか!」
「有り難い事じゃが儂は遠慮させてもらう。体も大分悪くなってしまったしのう」
ジョアシャンは朗らかに笑いながら白い髭を撫でた。
「……師匠がそう言うなら、わかりました」
クリスティーナは不承不承、といった様子を見せながらも、大人しく引き下がった。
「うむ。それで良い。――じゃが、クリス。それとは別に頼みたい事があるのじゃが……聞いてくれるか?」
「!勿論です」
敬愛する師匠から頼まれるという事にクリスティーナは喜色を顔に浮かべた。
「もう一度図書館……それも5階に行く事になるのじゃが……それでも良いか?」
「……ッ。――はい、師匠のためならば」
正直、不安にならない理由が無い。
クリスティーナは実際、あの場所に行き、記憶を失ったのだ。彼処が尋常では無い事くらいわかる。
だが、師匠から頼まれるのであらば。――或いは、もう一度あの場所に行く理由が欲しかったのかもしれない。
「ほっほっほ。そこまで強く決意されるといい加減な頼みが出来なくなってしまうじゃろ」
「あっ……それもそうですね。すみません」
「いや、クリスらしいのう」
そう言いながら、ジョアシャンは昔の事を思い出したのか優しい笑みを浮かべた。
「ゴホン。本題じゃ。――クリスには儂の日記を取って来て欲しいのじゃ」
「日記……?」
「そうじゃ。……備忘録、といった方が良いのかもしれぬが」
そこまで言ったジョアシャンは深く息を吸うとクリスティーナに向けて続きを話し始めた。
昔、まだジョアシャンが聖境司であった頃の話だ。彼は仕事の事から私生活の事まで、毎日の様子を一つの本に書き留めていた。
ジョアシャンが取って来て欲しい、と言った物はこれの事だ。
大切に保管していた物だが、聖境司を辞める頃にはもう、手元に無かったらしい。
「……それで何か手がかりはあるのですか?」
「それがのう……あまり覚えて無いのじゃ。見ればわかるんじゃが。――自分で忘れようとしたのもあるのかもしれぬがのう……」
「……?それはどういうことですか?」
「うむ……そうじゃな。あれは儂の黒歴史の様なものでもあるんじゃ」
「黒歴史、が書かれているのですか?」
「いや、そういう事ではない。あの存在そのものが黒歴史なんじゃよ」
ほっほっほと師匠は笑うと柔らかな微笑を浮かべ、続けた。
「大人になった時……それこそ今の様に老爺になった頃にでも読み返した時、幼く見えぬ様に背伸びして書いたのじゃよ」
「まあ!ふふっ。そうなのですか」
当時のジョアシャンを想像し、クリスティーナは思わず笑ってしまった。
「悪いかのう?」
「ふふっ。いいえ、ただ予想外で」
「本当に……クリスも大人になったのう……」
ジョアシャンはクリスティーナを見て目を細めた。
「……ッそれより、探すためにも手がかりを思い出してください」
恥ずかしくなったクリスティーナは話題を逸らした。
ジョアシャンは暫し当時に思いを馳せた。
「――そうじゃ!表紙は鮮やかな青色じゃったのう。綺麗じゃったから日に焼けぬ様気をつけていた」
探す上で、外見の印象は大切だ。
「わかりました。必ず見つけて師匠のもとに持って帰ります!」
次回の更新日こそ、30話まで行きたいです!!




